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Friday, 12 June 2015

飯田市川本喜八郎人形美術館 玄徳の周辺 2015/06

六月五日、六日と飯田市川本喜八郎人形美術館に行つてきた。
今回はメインのケースについて書く。
このケースのテーマは「玄徳の周辺」だ。
玄徳・劉禅父子を中心に人々が取り巻いてゐる、といつた趣である。
向かつて左奥から法正、張飛、関羽、左手前から美芳、玲々、馬超、黄忠、中央奥に玄徳、劉禅、その右手前に趙雲、馬謖、関平、馬謖の背後に魏延、姜維といつた順で並んでゐる。

法正はなんとなく蚊帳の外にゐるやうに感じられる。
隅にゐるからだらうか。
前回の「三国鼎立~五丈原」のときはおなじケースの中央手前やや右よりのところにゐて、「さすが太守になるだけあつて、いい位置にゐるなあ」と思つたものだつた。
文官は外へお行き、とでも云はれたのかな。
前回見たときは「ダンディなをぢさま」つぷりにばかり目がいつてしまつた。
今回は衣装の梅模様ばかり見てしまつた。円を六つ重ねたあれは梅だらう。桜ぢやないよな。
中央にゐる玄徳父子の方をやや見上げるやうにしてゐて、輪に入らうといふ意思を感じるだけに、チト不憫な気もする。

法正の手前に玲々をおんぶした美芳がゐる。
このケースで思はず立ち止まるのはまづここだ。
背後から母の顔を覗かうとする玲々の愛らしさと、ふりむいて我が子の顔を見る美芳の表情のやさしげなことといつたらない。
ケースの角の切り落としたやうになつてゐる部分から見ると、最高だ。
美芳のベストアングルなんではあるまいか。
見てゐるだけで思はず微笑んでしまふ。
今回、メインのケースと相対するケースとのあひだには展示はなく、ホワイエにある椅子が八つほど並べられてゐる。
座つてのんびり展示を眺めたいところだが、残念ながら椅子の位置と美芳・玲々との位置がチト合はない。
合つてたらずつと見てしまふなあ、きつと。

法正の隣、ややはなれたところに張飛がゐる。
さうか、この距離感が法正の「蚊帳の外」感を強めてゐるのかな。
張飛は両腕を垂らしてやや広げ、手のひらをこちらにむけて「なんでだよ」とでも云ひたげなやうすで立つてゐる。「いいぢやねえか」かもしれない。
視線の先には玄徳父子がゐる。
この親子に対して、張飛はなにか云ひたいことがあるのだらう。
実際口に出してゐるだらうとも思ふ。

そんな張飛の隣には関羽が立つてゐる。
髯に手をやつて、おなじく玄徳父子を見てゐるものの、関羽はどことなく傍観モードだ。
自分が口を出すことではない。
さう思つてゐるのではあるまいか。
よくよく見ると衣装の裾がほつれてゐて、三十年の重みを感じてしまふ。

美芳母子からすこしはなれた位置に馬超がゐる。
玄徳の配下に入つたからだらう、毛皮のマントは身につけてゐない。どこかすつきりとした出で立ちである。
でもその衣装には豹柄があしらつてあつたりするんだよね。
馬超も玄徳父子を見てはゐるものの、特に思ふところがあるやうには思はれないのは、仲間にはなつたものの、なつて以降の登場・活躍に乏しいからかなあ。

そこへ行くと黄忠にはもつと情があるやうに思はれる。
視線の先には玄徳父子がゐて、その手は胸にあてられてゐる。
感じ入つた、とでもいつたやうすだ。
黄忠は、人形劇ではきかん気の強い老将といつた印象が強いけれど、飯田で会ふともつと思慮深げなやさしい人に見える。一見柔に見えて実は剛、といつた感じとでもいはうか。
それもまた黄忠の一側面なのだと思つてゐる。

黄忠の右、ややはなれたところに趙雲がゐる。
ややはなれてはゐるものの、あひだに玄徳と劉禅とがゐるので趙雲が蚊帳の外にゐるやうに見えるといつたことはない。
趙雲も玄徳父子を見上げてゐる。
趙雲も関羽とおなじやうに自分がどうかう云ふ立場ぢやない、といつたやうすに見受けられる。
でも関羽よりはもうちよつと能動的といはうか、きつと若殿の言ももつともとかなんとか、そんなことを考へてゐるのぢやあるまいか。
なにしろ二度も助けちやつたしねえ、劉禅のことは。

ケース中央奥高い位置に、玄徳と劉禅とが立つてゐる。
玄徳は劉禅を見下ろしてゐて、劉禅は前のめりになつて父を見上げてゐる。
この玄徳の表情がとても厳しい。
劉禅がなにか阿呆なことを云つて、それを咎めてゐる。
そんな風に見える。
いや、人形劇の劉禅だからそんな阿呆なことは云はないか。
劉禅の甘さを戒めてゐる。
そんな感じかなあ。
飯田でこんなに厳しい表情の玄徳に会つたのははじめてだ。
それにしても飯田の玄徳はいつ見てもいい男だ。
東映時代劇全盛のころのヒーローに似た雰囲気がある。
どこかちよつとくどいんだよね。
以前、八丁堀にある職場に東京駅から歩いて通つてゐたことがある。
フィルムセンターの前にさしかかると、「旗本退屈男」を上映してゐたらしく、白黒写真のポスターの早乙女主水之介がこちらをはつたと睨みつけてゐるのを毎日見てゐた。
わかつてゐても思はず見ちやふんだよね。
ものすごい目力なんだもの。
あのなんともいへない色気に似たものが飯田の玄徳にはあるんだなあ。

劉禅はやや前傾姿勢で玄徳を見上げてゐる。
父親にくつてかかつてゐる。
そんな風にも見える。
人形劇の劉禅は賢いいい子なので、阿呆なことは云ふまい。
でもまだこどもなわけで、幼い意見や世間知らずの妄言を吐くやうなことはあつたらう。
そんな感じなんぢやないかなあ。
それを張飛は「いいぢやあないか」と思ひ、関羽はしづかに見守り、馬超は仲間になつたばかりだしやうすを見ておくかといつた感じで、黄忠は我が主君父子はすばらしいと思つてをり、趙雲は若殿持ちだけど玄徳の云ふことももつともと思つてゐる、とかなんとか、まあそんな場面なんぢやああるまいか。
あ、法正か。法正はどうなんだらうね。法正もなにか云ひたげではあるけれど、如何せん物理的にも心理的にも距離が遠すぎる。

馬謖、関平、魏延、姜維はこの四人で別世界といつた趣だ。
馬謖と関平、魏延と姜維、なのかな。魏延と姜維とはそれぞれにまた別々な感じもする。
馬謖と関平とはなにやら話し合つてゐるやうすだ。
馬謖がなにやら持論を滔々と述べてゐるのかもしれない。
いい人の関平さんはその馬謖に合はせてゐるのかも。
馬謖は前回の展示のときは奥の方にゐたと記憶する。それで気づかなかつたのだらう、今回見たら「馬謖の衣装つてこんなに派手だつたつけか」とちよつと驚いた。
派手、といふよりはきれいなのかもしれない。
馬謖は人形劇での出番も少ないし、展示もこの「三国鼎立~五丈原」のときだけだから、あまり劣化してゐないのかも。

関平は関平でやはりなにか云ひたげなやうすでゐる。
馬謖が滔々と持論を述べてゐる、といふのはやつがれの勝手な妄想で、単にふたりで話し合つてゐるので関平もなにか云ひたさうなのかもしれない。
うーん、でもやつぱり人のよささうな関平さんは、馬謖が延々と喋つてゐるのを聞きつつ、「それはさうだけど」とかなんとか、相槌を打ちつつ反論を試みてゐるやうに見えるなあ。
人形劇の関平は孔明から見ると弟弟子にあたるわけだし、それなりに学もあるんぢやないかなあ。

魏延はこのケース最大のエニグマである。
大げさかもしれないけど。
向かつて左の方を睨んでゐるのだけれど、なにを睨んでゐるのかさつぱりわからないのだ。
向かひのケースの中にゐる曹操の武将の中の誰かか。
あるいは手前にゐる馬謖かあるいは趙雲か。
それとも単に不満でそつぽを向いてゐるだけなのか。
まづ、向かひのケースといふことはなささうだ。何度か向かひのケースの前から確認してみたけれど、魏延の視線はこちらまで伸びてはゐないと思ふ。
それでは趙雲か、はたまた馬謖を睨んでゐるのか。
趙雲を睨んでゐる、といふのはもしかするとあるかもしれない。
今回、いはゆる「五虎将」が玄徳父子をとりまいてゐるといつたやうすなので、「なぜ自分はあの中に入れないのか」と不満を抱いてゐるといふことはありうる。
それで一番自分の近くにゐる趙雲の方を睨んでゐる。
その可能性はある。
うーん、でもやつぱり馬謖を睨んでゐるのかなあ。
「この青二才めが」とか思つてゐるのかもしれない。
前回の展示のときは剣舞の最中といつた恰好だつたんだよね、魏延。
今回は角度によつてはなんだかいい男に見えるぞ。

姜維もなにを見てゐるのかよくわからないけれど、馬謖と関平との対話を傍らで聞いてゐる、といつた趣なのかもしれない。
馬謖のところでも書いたけれど、姜維もまたぱりっとしたやうすで立つてゐる。
出番が少ないし、展示もこの時期だけだものね。
人形劇の姜維は正面から見るとやや寄り目でちよつと変はつたタイプに見えるが、横顔はとても凛々しい。前回の展示のときに気がついた。
帯は龍柄なんだな。指は五本。一部四本だつたりもするけれど、おそらく一本はかくれてゐるのに違ひない。

以下、つづく。

諸葛亮と特異なキャラクターはこちら
江東の群像はこちら

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