飯田市川本喜八郎人形美術館 人形アニメーションとホワイエの展示 2015/06
六月五日、六日と飯田市川本喜八郎人形美術館に行つてきた。
今回は人形アニメーションとホワイエの展示とについて書く。
人形アニメーションの展示は、展示室の一番奥の方にある。
壁からはなれたところに入口に近い方から「いばら姫またはねむり姫」のケース、「道成寺」のケースが並んでゐる。
その向かひの壁沿ひには奥から「鬼」のケース、「冬の日」のケースが並んでゐて、出口のそばに「火宅」のケースがある。
「いばら姫またはねむり姫」の展示には背景のセットもついてゐる。
窓のはめこまれた壁が二面、暖炉やテーブルセット、床などがある。
テーブルの上には果物をもつた籠がある。
椅子には背もたれがない。
壁は暗い青で、青い花がところどころに散つてゐる。
床はチェッカーボードのやうな柄だ。ところどころにバミつた後が見える。
そして、姫はいつものやうに椅子に座り、刺繍をしてゐる。
いつものやうなんだけれども、セットの中にゐるとまた印象が違ふものだ。
蝋燭の燃えさしひとつとつても、そこに物語が見え隠れする。
いままで見た「道成寺」の展示の中では、今回が一番動きが少ない。
女は立つて空を仰ぎ、袿を引きずつてゐる。
これはいままでも大枠ではかういふ形でゐた。
以前見たときは袿を持つてゐない方の手は胸元にあつたりしたこともあつたが、今回はさういふこともない。
髪の毛も落ち着いたやうすである。以前の展示では極細の針金が見えたが、今回は見つけられなかつたなあ。
動きの少ないせゐか、顔の表情はいつもより険しく見える。
険しいといふか、苦しげ、といふ感じかな。
眉根がひどく寄つてゐるやうに見えるし、顔色も心なしかよくない。
顔色はもちろんこちらの気のせゐである。
「鬼」は、今回兄の方が高いところにゐて、弟の方はすこし低いところにゐる。
作品の中でも山を登る場面があつたと思ふ。
それを思ひ出した。
ポージングは以前見たときとそれほど変はらないやうに思ふ。
「鬼」の展示でいつも思ふのは、手の繊細さ、それも指先まできつちりとした繊細なところだ。
兄も弟も実にきれいな手をしてゐる。指の形もいい。
あと顔がかなり文楽の人形のカシラに近いのもおもしろい。
ここから段々変はつていくんだよねえ。
「冬の日」は、待つてました、だ。
見たかつたんだよねえ。可愛いもの。
ほかの人形アニメーションの人形と比べるとさらに小さい。
小さいけれど、中にこらした工夫などはほかの人形と変はらない、もしくはもつといろいろ入つてゐるのださうな。
芭蕉がまづ一人で立つてゐるのだけれど、この表情がなんともいいんだよねえ。年経て悟りの境地に達したのちの好々爺然とした感じ、とでもいふのだらうか。
三年前の夏、紀伊國屋サザンシアターに「芭蕉通夜舟」といふ芝居を見に行つた。井上ひさしの書いたひとり芝居で、坂東三津五郎が芭蕉を演じた。
劇中の芭蕉はもつと気難しい感じだつたなあ。まあ、若くてこれといつた役職もないところからはじまるからかもしれないけれど。
ひいきのあひだでは「なにもこんな芝居に出なくても……」といふ意見もあり、やつがれなども「さうねえ。だつたらもつと歌舞伎に出てほしいよねえ」などと思つたものだつたが、三津五郎本人はやりたかつたんだらう。ほんたうだつたら去年の12月に再演してゐるはずだつた。
「芭蕉通夜舟」は、たまたま通路際の席が取れた。
劇中、客席を歩いてきた芭蕉が、やつがれのすぐ脇で立ち止まつた。
芭蕉はふり向いて、もう見えなくなつた人々に向かつてなにやら悪態をついた。
多分、坂東三津五郎と最も接近したのはこのときだ。
大和屋はちいさい人だつた。
そのせゐか、飯田で芭蕉を見てゐて、そんなことを思ひ出した。
芭蕉の右、すこしはなれたところに名古屋の連衆が並んでゐる。
正平、重五、野水、杜国、荷夸の五人だ。
いづれも座してゐて、楽しさうな笑顔を浮かべてゐる。
ひとりひとり羽織の紋や衣装の柄が違ふのはもちろんのこと、着付け方や羽織紐、袴の紐の結び方が違ふなど実に細かい。杜国と荷夸とは袴なしだ。
人形アニメーションではとくに思ふのだが、よくぞこんなに細かい柄の生地を探してきたなあ。
このケースだけでものすごく楽しめてしまふ。
「火宅」のケースには小竹田男、菟名日処女、血沼丈夫がゐる。
これまで見たことのある「火宅」の展示のときは、小竹田男も血沼丈夫も菟名日処女を見てゐた。
今回は、小竹田男はあらぬ方向を、血沼丈夫は赤い梅を見てゐる。
小竹田男の思ひつめたやうな顔、血沼丈夫の行き場のないやうすはこれまで見たものにもあつた。
菟名日処女はやや高い位置にゐる。その表情は、これまで見たものよりも苦悩が深いやうに思つた。
なぜ小竹田男も血沼丈夫も菟名日処女を見てゐないのか、菟名日処女の苦悩はどこからやつてくるのか。
そんなことを考へてゐると、やはりこのケースの前でも立ちつくしてしまふのだつた。
ホワイエには、ヤンヤンムウくん、ブーフーウー、ミツワの三人娘、おおきなかぶ、ほろにがくんのほかに、パペットアニメーショウの彫り物じいさんとトイレの男、それから「シンデレラ」のシンデレラと王子様が展示されてゐる。
パペットアニメーショウは、今回アニメーション上映作品として見た。
間近で見るとかなり大きい。
美術館の方のお話だと、ウレタン製なのではないかといふことだつた。
経年による変化でいつくづれてもをかしくない、そんな状態なのだといふ。
そんな貴重なものを見られるなんて、実にありがたい。
トイレの男はトイレやトイレットペーパーホルダーなどのセットとともに飾られてゐて、このセットがまた異様にリアルで細かい。
しかも、その手に握られてゐるのはくしやくしやになつた飯田市川本喜八郎人形美術館のパンフレットぢやあるまいか。
細かいなー。思はず笑つてしまふ。
ぢいさんも皺や刺青の表現にうなる。
刺青は川本喜八郎自身のものとは違ふ柄(柄?)のやうだ。
また会ふこともあるのだらうか。
それとももうこれが最後かな。
そんなことを思ひながら見た。
トイレの男とぢいさんといふユーモラスなふたりの右隣のケースにゐるのがシンデレラと王子様といふのもおもしろい。
なんだらう、この取り合はせ。
絶対合はないはずなのに、妙にマッチしてゐるのがいいな。
今回も、美術館の方々から展示のことはもちろんその他まことにさまざまなことを教はつた。大変ありがたいことだ。
うかがつたお話などは、いまの時点ではあまり書いてゐない。
実際に行つて、実際に聞いた方がいいと思つたからだ。
手帳には覚えてゐるかぎりのことを記したので、今回の展示の会期が終はるころに書けたらと思つてゐる。
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