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Friday, 01 May 2015

川本喜八郎人形ギャラリー 赤壁大戦 その一

四月二十四日(土)、展示替へに合はせて渋谷ヒカリエにある川本喜八郎人形ギャラリーに行つてきた。
今回は、入つて一番最初に目に入る大きなケースについて書く。
最初に目に入る所以は、めらめらと燃え上がる炎をイメージしたタペストリがあるためだ。
実に印象的なタペストリである。

と、書くつもりでゐたのだが。
二十九日に行つたところ、二十四日時点とはポージングの変はつてゐる人形がゐる。
びつくりしたなあ、もう。
覚えてゐるかぎりのことを書くことにする。

入口を入つて正面のケースは「人形劇三国志」のケースで、曹操と孫権と、あとそれぞれの配下の人々が飾られてゐる。
入口から一番遠い左端から、郭嘉、夏侯惇、夏侯淵、程昱、夏侯淵と程昱とのうしろに許褚と曹操が並んでゐる。

ギャラリー全体の照明が以前より暗くなつてゐるといふこともあるのだが、郭嘉のゐるあたりはさらに暗い。
「赤壁の戦ひに郭嘉?」と思つたが、おそらくあの世にゐる心なのだらう。ひとりだけちよつとはなれたところに立つてゐるしね。
去年のいまごろの展示で、重盛がやはりこのあたりの後方にゐた。
我が世を謳歌する平家一門の中で、ひとりだけ蚊帳の外といつた感じで立つて天を仰いでゐた。
多分、あの重盛も彼岸の人、すくなくとも半分くらゐは彼岸の人といふことだつたのだらう。
この位置は彼岸なのかもしれない。
郭嘉は、あの世から曹操とその軍との悲惨なやうすを沈鬱な表情で見てゐる。
そんな感じがする。
照明が暗いこともあつて、その顔に落ちる影も濃く、もの思はしげな表情になつてゐる。
曹操は「郭奉孝が生きてゐたら」と云つたといふが、郭嘉は「自分が生きてゐたら」とは思つてゐないだらうな。
でも「ああ、あんなことになつて……」と嘆いてはゐるんだらう。

郭嘉からすこしはなれたところに夏侯惇が片膝をついてゐる。片手で顔のあたりを覆ひ、もう片方の手で胸のあたりを抑へてゐる。
夏侯惇も戦ひに馳せ参じたのだらうか。
船上で呉の攻撃にあひ、揺れに勝てずに膝をついてしまつた、といふ感じに見える。
「人形劇三国志」ならいいかもとは思ふけれど、典韋を出すわけにもいかないしね。
いろいろ考へての人選だつたのかもしれない。

その隣に夏侯淵がやや右側を向いて立ち尽くしてゐる。
すくなくとも二十四日の時点ではさうだつた。
白目をむいて、手はだらりとさげて外に向け、足を肩幅よりやや広いくらゐに開いてただただ立ち尽くしてゐた。
それを見て、「白目むいてる場合ぢやないだろう!」と思ふたものだつた。お前が戦はんでどーする!
そんなに呉に敗れたことがショックだつたのだらうか。
それが、二十九日に行つてみたらばこは如何に。
白目は向いてないぢやあないか。
しかも、ただただ立ち尽くしてゐるといふやうすだつたはずなのに、いつのまにか俯いて腕を組み、なにやら思案にくれたやうすで立つてゐる。
この方がこの時点での「人形劇三国志」の夏侯淵らしいとはいへる。
まあそれでも「考へ込んでる暇があつたら戦へよ!」ともいへるわけだが。

夏侯淵の右側、ややはなれたところに程昱が尻餅をついてゐる。
これも、二十四日時点ではさうだつた。
船の揺れに足を取られて尻餅をついてしまつたのだらう。
袖で顔を覆ひ、衣装の裾から両の足がのぞいてゐる。
さう、足が見える。くつつてかうなつてるんだ、といふのがとてもよくわかる。
文官の足を拝める機会なんてさうさうないよ。これからは来るたびに見ることができるんだな。
と、二十四日はさう思つてゐたわけだ。
ところが、二十九日に行つてみたらばこは如何に。
程昱は尻餅なんぞついてはゐなかつた。
膝をついて後方にゐる曹操を見上げ、なにやら献策をしてゐるやうに見えた。あるいは取り乱してゐる曹操の正気を取り戻さうとしてゐたのかもしれない。
至極落ち着いた表情で、横顔つてやつぱり正面から見たときと印象が変はるんだな、と思つた。

夏侯淵も程昱も、川本喜八郎オフィシャルウェブサイトには二十四日時点の写真が掲載されてゐる。
この写真もいつまで見られるかわからないけれど。
(追記: 5/3 既に写真も差し代はつてゐる)

夏侯淵と程昱とのうしろ、すこし高いところに、許褚と曹操とがゐる。
倒れ伏して孫権を、周瑜を、孔明を呪ふ曹操を助け起こさうとしてゐるところだらう。
「しつかりしてくだされ、殿」とかなんとか云つてゐるのぢやあるまいか。
許褚は人形劇のときよりだいぶリアルな顔になつてゐるので、その場の緊迫感にそぐつてゐるやうに思ふ。
人形劇のときの許褚は、ちよつと可愛い顔立ちだものね。

そして、初回に「今回の展示は曹操と周瑜とでせう」と書いた、その曹操である。
倒れ伏し、それでも頭をややあげて、忿怒の表情を浮かべ、すつかり我を失つてゐる。
このカシラ、人形劇で使はれたものぢやないか知らん。
赤壁の戦ひのときのあのカシラぢやないか知らん。
青黛の目立つカシラで、「人間、本当に心の底から怒ると青ざめるんだな」と思つたものだつた。
「赤壁の戦い」の回で、黄蓋の苦肉の計と龐統とにまんまとだまされた曹操は、燃える船上で夜空に向かつて吠える。
策を弄して天下取りまであと一歩のところまでやつてきたこの自分が、策をもつて大敗しやうとしてゐる。
周瑜か。
いや、その背後には諸葛孔明がゐるはずだ。
ここで、人形劇では夜空に孔明の影が浮かんで、大笑するといふ映像がうつる。
孔明、ヒールだな。
はじめて見たときにさう思つた。

許褚と曹操との背後に、最初に書いた炎のタペストリがある。
このタペストリと許褚と人の変はつたやうな表情の曹操との取り合はせが実にいい。
また、やや左寄り、許褚の頭を頂点とした三角形の構図もすばらしい。
近くに寄つては食ひ入るやうに眺め、はなれては全体的な構図を楽しむ。
いいぞいいぞ。

といふわけで、まだつづく。
義仲上洛についてはこちら
平家都落ちについてはこちら

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