読み返したいけどちよつと怖い
こどものころのことである。
叔母がいとことやつがれとに「少女フレンド」と「花とゆめ」を示し、「好きな方をあげるよ」と云つた。
いとこは「少女フレンド」を取つた。
やつがれの手元には「花とゆめ」が残つた。
これがやつがれの少女マンガの趣味嗜好を決める結果となつた。
それ以前にも、「別冊マーガレット」を読んではした。
病院通ひが多かつたためか、母がたまに買つてくれたのだつた。
母は病院にある本を読むのをいやがつてゐた。
読みたかつたのは母だつたのかもしれない。
そこで和田慎二の「わが友フランケンシュタイン」シリーズを読んだりしたのだつた。
この時点で、まんがの好みはある程度決まつてゐたと思はれる。
そこに「花とゆめ」だつた。
当時の「花とゆめ」では「ガラスの仮面」の連載も「スケバン刑事」の連載もまだ開始してはゐなかつた。
連載作品として記憶にあるのは「アラベスク」第二部の終盤だ。
主人公ノンナがラ・シルフィードを踊つてゐる最中に、伴奏してゐたビアニストが突如演奏をやめてしまふ。しかし、ノンナはそれにも気づかず踊りつづける、みたやうな場面を今に至るまで覚えてゐる。
水野英子の連載もあつたやうに思ふが、定かではない。
こやのかずこの連載は終はつてゐたやうに思ふけれど、一度くらゐは巻頭カラーで見たやうな気もする。
読み切りでささやななえ(当時)が怖いまんがを描いたり、山田ミネコが不思議なまんがを描いたりしてゐた。
そんな中に「だから旗ふるの」といふまんががあつた。
「はみだしっ子」シリーズとの出会ひだつた。
やつがれがアンジー派であつてもなんの不思議もない。
中学に通ふやうになつて、友人がグレアムが好きだといふのに驚いたり、実は世の中にはグレアム派が多いのだといふことを知つたりするやうになる。
それまではひとりで三原順を読んでゐた。
そんなわけで四月四日のヤマザキマリの講演会には行きたかつたが、行けなかつた。
水戸に行つたからである。
「ひとりで三原順を読んでゐた」と書いたが、本はひとりで読むものだと思つてゐる。
まんがは少し違ふかな。
まんがは、とくにこどものころはたくさんは買へないので、ともだち同士で持ち寄つて互ひに貸し借りをしてゐた。小学校高学年くらゐのころのことだ。
読むときはひとりなのだが、読んだあとに「あの場面がどうの」「この登場人物がかうの」といふ話を仲間うちでするやうになる。
「はみだしっ子」シリーズの単行本を持つてゐるこどもは、やつがれの周りにはゐなかつた。
やつがれ自身は二巻と四巻とを持つてゐたと思ふ。
なぜか一巻とはなかなか本屋で出会ふことがなかつた。
三巻は買はうとしたら売り切れてゐた。
そんなにお小遣ひがあるわけでもなかつた。
しかも母は三原順が好きではなかつた。
好きだつたら買つてもらふこともできたかもしれない。
残念なことである。
手元に二巻と四巻としかない状況で、ともだちには貸せなかつた。
基本的には一話完結だが、一応話はつづいてゐる。
一巻で出会つた人のつてで三巻に登場する人に会ひに行き、四巻ではそのふたりが重要な役割をはたすやうになる。
やつがれはそのことがわかつてゐるからいいが、はじめて読む人間にはやさしくない。
そんなわけで、当時は「はみだしっ子」仲間が増えなかつた。
しかし、三原順は、ひとりで読む方がいいのかもしれない。
友人と一緒に読んで、「Die Energie 5.2☆11.8」を語り合つたりするだらうか。
語り合つたとして、どんなことを?
あのまんがを友人と「あーでもない」「こーでもない」と喋り倒すところがやつがれには想像できない。
せいぜい、「重たかつたね」「うん、よかつたけどね」「うん」くらゐが関の山だ。
「Die Energie 5.2☆11.8」を「あーでもないこーでもない」と語り合ふやうなこどもだつたらよかつたのになあ、とは思ふがね。
中学生になると、上に書いたグレアム派の友人以外にもまんがを読む同級生が周囲に増え、「花とゆめ」や「Lala」を読んでゐる人も多かつた。
多かつたけれど、さういふ友人たちとしてゐたのは「パタリロ!」の話だつたり「エイリアン通り」の話だつたり、「紅い牙」シリーズの話だつたりした。
掲載誌は違ふけれど、「那由他」の話なんかもあつた。
でも、「はみだしっ子」や「ルーとソロモン」の話をした記憶はほとんどない。
Untouchable。
そんな雰囲気だつた。
敬して遠ざける。
そんな雰囲気もあつた。
かくいふやつがれは、もう長いこと「はみだしっ子」シリーズを読み返してはゐない。
「ロングアゴー」を三年ほど前に読んだかな、くらゐである。
読み返さない理由は、読み終はつたあと「この世」に返つてこられなかつたらどうしやう、と思ふからだ。
来る連休にでも読み返して、五月病にでもかかつてみるか。
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