飯田市川本喜八郎人形美術館 夫婦善哉
三月六日、七日と飯田市川本喜八郎人形美術館に行つてきた。
といふ話は先週も書いた。
今回、九組の夫婦が展示されてゐる。
そのうち劉表と蔡夫人とは隣同士ではあるものの、一緒にゐるといふ感覚の一番薄い夫婦である。
蔡夫人は息子の劉琮と一緒だからな。
劉表もひとりで立つてゐるといつた趣だし。
そこいくと次のケースにゐる玄徳と淑玲との方がはなれてゐるけれどもよつぽど夫婦だ。
うーん、夫婦ではあるけれども、でもまだ戀人同士な感じか知らん。
それは張飛と美芳もさうか。
この展示の時点ではもうすでに結婚してゐるものと思はれるけど、美芳は勝平を見てゐる。張飛のことは見てゐない。
見てゐないけれど、劉表と蔡夫人とのやうによそよそしい感じはしない。
今回の展示の劉表と蔡夫人とのよそよそしさは、一国一城の主夫婦にありさうな感じのよそよそしさだ。儀礼のときだけ夫婦、といふかさ。
さらにその次のケースの周瑜と小喬とはあひかはらずステキだ。
展示替へ後にも書いたけれど、周瑜がこんなにやさしさうな表情をするなんてねえ、としみじみ見入つてしまふ。
二度目にこの美術館を訪れたときだつたと思ふが、美術館の方が貂蝉の前で「しやがんで見るとまた表情が違ふんですよ」と教へてくだすつた。
しやがんで見上げるやうにすると、やさしい表情になるのだ、といふ話だつた。
今回の展示でも、人形同士が見つめあつてゐるので、一方の人形の位置からもう一方の人形を見るといい、といふ教へを受けた。
いいよー、小喬の視線の高さから見た周瑜は。
周瑜はいつでもいい男だが、今回はまた格別だ。
赤い牡丹の花を手にしてゐるのもいい。
小喬が少女のやうなので、とてもロマンティックにも見える。
いいわー。
その次のケースには、北条政子と頼朝とがゐて、これがまたなんともいい感じである。
展示替へ後のときも書いたけれど、恥ぢらう政子なんてめづらしい、と今回も思つた。
周瑜と小喬とは見つめあつてゐるけれども、政子はちよつとうつむいてゐて、頼朝は政子の方を見てゐる。
このふたりはこれから夫婦になるのかな。
そんな感じもする。
夫婦の話をしてゐるけれど、ここではどうしても北条時政に触れずにはゐられない。
政子と頼朝との左後方やや高いところに時政が座つてゐて、ふたりの方を見てゐるんだけど、その表情がたまらないんだよね。
といふことは前回も書いた。
政子と頼朝との前に立つて時政を見ると、胡乱げな表情でこちらを見てゐるので、思はず笑ひ出したくなつてしまふ。
その横には葵と義仲と巴とがゐる。
ここの夫婦はチト複雑ね。
葵が左側、巴が右側にゐて、このふたりよりもやや後方に馬上の義仲がゐる。
巴は葵に話しかけやうとしてゐるんだらうといつた風情で、葵はそんな巴の方に目だけを向けて「ふふん」とでも云ひたげな表情をしてゐる。
そして義仲は、やや心配さうな表情で巴を見てゐる。
この三人はいま渋谷ヒカリエの川本喜八郎人形ギャラリーにもゐる。
義仲はやはり馬上で、おそらくは頼朝の方を見据ゑてゐる。
渋谷の義仲にはいつ見ても視線を釘付けにさせるやうな勇ましさがある。
飯田の義仲には、状況が状況だけにそれがない。
人形が違ふといへばそれまでだけれども、見比べるとこれがまたおもしろい。
麻鳥と蓬子とは別ケースにふたりでゐる。
このふたりのことも、展示替へ後に書いた。
説明の札のある方を表としたときに、裏から見たふたりの表情がとつてもいい、と書いた。
表から見ると、これから診察に出かけやうといふ麻鳥を蓬子が見送るところに見える。
あ、麻鳥が帰つてきたところといふことも考へられるか。それは思つたことはなかつたな。麻鳥の顔に決意のやうなものが見られるからかもしれない。これから行つてくるぞ、といふやうなね。
裏から見ると、麻鳥を見つめる蓬子は微笑んでゐるし、そんな蓬子を見つめる麻鳥の表情もどこかやはらかい。
ここも、つひ立ち止まつてしまふポイントである。
最後に蓮祐と蓮如とがゐる。
この展示のふたりはまだ夫婦ではないのかなあ。夫婦ではないのかもしれない。
蓮祐はやさしげな表情で立つてゐるけれども、蓮如の顔には苦悩が深い。眉間の皺が深いせゐだらう。
「蓮如とその母」は見たことがない。あ、東京藝術大学で「川本喜八郎 その人と作品」といふ講演を聞きに行つたときに、一場面だけちよこつと見せてくれたつけか。
蓮如は前妻を失つたばかりで、大勢のこどもの面倒を寺男のやうな人とふたりで見てゐる、といふやうな場面だつた。
このときの蓮如にはそんなに苦悩してゐるやうすはなかつたと思ふ。こどもの世話でそれどころではなかつたのかもしれない。
といふことは、蓮祐とゐるときでも、もうちよつとやはらかい表情をしたりもするのだらうか。
「蓮如とその母」は、この月末に見る予定である。
楽しみにしてゐる。
テーマをしぼると書けないことも当然出てくる。
そんなわけで、まだつづく、かもしれない。
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