明日のことだけ考へる
10 Things Highly Creative People Do Differentlyといふ記事を読んだ。
読んだ、といつてもざつと目を通したくらゐだけれども。
最初に、ル・コルビジェの話が出てくる。
ル・コルビジェは、午前中はひとりで絵を描いたりアイディアなどを熟考する時間にあて、午後は熟練した従業員や製図者たちからなる自分のチームとの共同作業にあててゐた、といふ。
Highly creative people は、自分自身を知つてゐる、とつづく。
なにをどうすれば自分のやりたいことがうまくいくのかわかつてゐる、といふのだ。
ル・コルビジェの場合は、午前中はひとりでアイディアをふくらませ、午後は仲間と共同作業をするのが一番向いてゐた、といふことだ。
ここまでは、「なるほど」と思ふ。
でも、「世界的にcreativeな人々は、9to5にこだはらない」といふのにちよつとつまづく。
たとへばカントは毎朝五時に起きて仕事をしてゐた、とかね。
9to5にこだはらない、といふことは、すなはち会社勤めはしない、といふことだ。
最近ではフレックスタイム勤務制を導入する企業も増えてゐるから、必ずしもさうはいへないんぢやないか、といふ向きもあらう。
でも、あひかはらず東京では主要な駅から歩いて九時に着くとちやうどいいと考へられる時間に間に合ふ電車は異様に混んでゐる。金融業の多いところだと、それが三十分くらゐ早くなる。
それに、フレックスタイム勤務制などといひながら、結局十時には働きはじめなければならないといふところも多い。一時間ていどの差でどうしろといふのか。
会社勤めをしてゐるあひだは、会社の定めた時間にしたがはなければならない。
たとへば朝早いうちから仕事をした方が自分には向いてゐるとしても、朝の五時から出勤するわけにはいかない。
出勤したとして、その時間に働いたら時間外手当がつくことになり、上司にいやがられることになる。
また、自社ビルでない場合はとくに、午前五時には職場のドアが開いてゐない可能性も高い。
早く来たからには当然早く帰ることになると思ふが、それだと同僚や客と時間帯があはない。
やつがれの職場にも朝は始発で通勤してくる、などといふ人がゐた。普段はその分早めに帰宅してゐるが、客との打ち合はせが入つたりするとさうはいかない。それで「眠たい」などと云つてゐることがある。
自分に向いた仕事の仕方をするのはいいけれど、客にもあはせてもらはないといけないことになる。
それつて、できるものなのだらうか。
Highly creative people ならできるのか。
代へのきかない存在であるならば、客もこちらのいふことに従ふのか。あるいは上司も?
そこまでいきつくのに、自分のやり方ができなくてダメになりさうな気がするがなあ。
裏返して云ふと、9to5を従業員に強要する企業は、従業員に creative になることなど求めてゐない、といふことになる。
学校もおなじかな。
なんだ。creative でなくてもいいのか。
さういふ気になつてくる。
なんだか気も楽だ。
"10 Things Highly Creative People Do Differently" にはほかにもいろいろと書いてあつて、中にはこれなら自分でもできさうと思へるものもある。
でも、一日の暮らし方をすべて自分で制御するのは無理だなあ。
すくなくとも雇はれの身では、ね。
「せまじきものは宮仕へ」とはこのことかとも思ふ。
早起きといふことでいくと、やつがれも一時は朝五時半に起きてゐたことがある。
それまで帰宅後にやつてゐたことを朝やつてから出勤しやうとしたのだつた。
あるていど続けて、やめた。
朝五時半に起きるといふことは、夜もそれなりに早く寝るといふことである。
この生活をつづけていくと、歌舞伎座の夜の部に行けなくなつてしまふ。
夜の部はそれでもなんとかなることもあるけれど、ソワレの演奏会はとても無理だ。
帰り着く前に就寝時間が来てしまふ。
一日くらゐなら夜更かししてもいいぢやあないか、とも思ふが、万年寝不足の状態ではとても無理だ。
五時半だつたのは、帰宅して食事してから寝るまでに三時間おかうとすると、二十三時半より前に寝ることはできなかつたからだ。
まあ、いいかな。
どうせやつがれなぞは creative ではないのだし。
さうも思ふ。
最近、ちよつと思ひ出したのは、何年か前に「プロフェッショナル」系の番組で坂東玉三郎が云つてゐたことだ。
まさに「プロフェッショナル」そのものだつたかもしれないが、番組の名前は失念してしまつた。
若いころは、人気沸騰も相まつて、ギチギチにスケジュールがつまつてゐた、といふ。
毎月休みもないほどで、すつかり worn-out といつた状態だつたのらしい。
そこで考へ方を変へた。
明日のことだけ考へて暮らしてみやう。
明日、best performance を出すために、ちやんと食事をして、きちんと寝ることにしやう。
二ヶ月、三ヶ月先のことは考へない。
まづは、明日が大切だ。
そんなやうなことを云つてゐた。
そのときは「玉三郎だからできることだよね」などと思つてゐたけれど、「明日のことだけ考へる」といふのは、単純でいいかもしれない。
朝早く起きて creative なことをする、などといふことは考へない。
明日の best performance のためになるやうなことを今日やつておく。
いいんぢやないだらうか。
さう思つてはみたものの、実際は「明日なんかどーでもいいよ。来ないかもしれないし」と、飲んだくれて夜を過ごしたいこともあるんだがね。
ま、creative people でない身としてはそんなものか。
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