控へめに
三年前の夏以降、「隙あらばヒカリエ」な生活をつづけてきた。
ヒカリエと書いたが、行く先は川本喜八郎人形ギャラリーである。
ついでにがま口を見たり手ぬぐひを見たりメガネを見たりもするけれど、それはあくまでもついでだ。
時間に余裕のないときは、とにかく8Fを目指す。そして帰る。
どれくらゐ「隙あらば」だつたのかといふと、都心に用事のあるときにはほぼ必ず寄つてゐた。都心といつて、おもに山手線・丸の内線・銀座線で行ける範囲、かな。
唯一行かないのは、歌舞伎座の昼夜通しのときくらゐで、これはもちろん時間がないからである。
平日も、行けるときには行つてゐた。
とくに前回の展示のときは、まとまつた時間がなかなか取れず、ほんたうに隙間時間にちよこちよこ行くくらゐだつた。
今年は、「隙あらばヒカリエ」はチト改めやうかと思つてゐた。
去年の段階ではすくなくともさう考へてゐた。
ちよつと行き過ぎだと思ふんだよね。
毎日通つてゐる人の足下にはとうてい及ばない。
しかし、ところは渋谷である。
渋谷・新宿・池袋は、乗り換へでさへ降りたくない駅の筆頭だつた。
とにかく人が多いからである。
とくに渋谷はいけない。
新宿と池袋とには駅のそばに大きい本屋があるけれど、渋谷にはない。
東急文化会館のころには三省堂が入つてゐたのになあ、といつも思つてしまふ。
大盛堂も昔とは変はつてしまつたし、旭屋書店もいつのまにかなくなつてゐた。
東急本店は遠い。
さういへば、つい最近なにかと話題になつた紀伊国屋は近いのかな。行つたことがない。
なにしろ、渋谷駅周辺はダンジョンだ。時間のないときにうろちよろできる街ではなくなつてしまつた。
それに、なんといふか、依存しすぎな気がするんだよね。
いつのまにか、「あつて当たり前」な存在になつてゐる。
渋谷区の意向次第ではいつなくなつても不思議ぢやあない。
さう思ふやうにしてゐるのだが、しよつ中行つてゐるとそんなことも忘れてしまふんだよなあ。
さう思ふことが去年あつた。
行つたら、ギャラリーが閉まつてゐたのである。
とくに閉館予定のない日だつた。
着いたのも開館時間内だつた。
閉館のお知らせなどはギャラリー入り口にも出てゐなかつた。
かういふことがあるんだな。
勇んで会ひに来てみても、会へないときもある。
なにかしら理由があつて(或はなかつたとしても)閉館してゐたのだとは思ふが、あれは衝撃であつた。
かういふこともある。
肝に銘じることにした。
こんなことでショックを受けてゐるやうではいけない。
それには「隙あらばヒカリエ」を改めるしかないのではないか。
さう思つたんだな。
さう思つて、とりあへず今年はまだ三回しか行つてゐない。
今回の展示は、やはり義経、だらうか。
粗末(とはいへ義経なので、色味とかはなんとなく華やか)な衣装で袴はちよつとたくしあげてゐて、足下だけ女物の下駄、といふのがなんとも色つぽくていい。
白い素足に赤い鼻緒が栄える、とは、以前も書いたとほりである。
またその下駄の前に脱いである草鞋の履き古した感じがたまらない。
今回の義経は、自分の名をかたつてつかまつた源行宗の身柄について談判するために平時忠のもとを訪れて辞すところ、なのだと思ふ。ゆゑに題名も「二人義経」なのだらう。
説明にも書いてあるとほり、時忠は義経を亡き者にしやうと謀る一方で、義経のことをにくからず思つてゐる。
時忠の娘の夕花は、義経のことを好ましく思ひ、その命を助けやうとして、女物の衣類と下駄とを与へる。これでdisguiseしろ、といふわけだね。
展示では、夕花は義経を見上げてふんはりと微笑んでゐるやうに見える。
一方の義経は、顔は夕花には向けず、どこかよそを見てゐる。はぢらつてゐるわけでもなささうだ。この先待ちかまへてゐる未来に思ひをはせてゐる。そんなやうすに見受けられる。
行く回数は減らして、その分じつくり見る。
できればさうしたい。
今回の展示は義経、とか書いておいてなんだが、義仲も頼朝もイカしてるし。
仲綱・兼綱を見下ろす以仁王と頼政の表情もいい。
妹尾のダンディさは歌舞伎の「悛寛」に慣れた身には毎回うなるしね。
お正月限定でギャラリー外のケースにゐた妓王もよかつたな。以前展示でゐたときには、頭のなかはまつ白といつたやうすで佇んでゐたけれど、今回はとどかぬ思ひに宙を見上げてゐる、といつた感じでとても可憐だつた。
もちろん、いつもの義高と大姫も切なくてよい。
などと書いてゐると、やはり今年も「隙あらばヒカリエ」なのかなあ、といふ気がしてくるのであつた。
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行く回数は減らして、その分じつくり見る。
できればさうしたい。
私もアチラをその様に考え始めた年の初めでございます…実践出来るかは別として…オホホwww
Posted by: 張良 | Wednesday, 21 January 2015 11:34