云ふべきか云はざるべきか
好きなことは公言すべきなのだらうか。
先月、「忠臣蔵でござる」に行つてきた。
柳亭市馬と春風亭昇太とを忠臣もとい中心に、その他ゲストの噺家などが出てきて落語をやつたりちよつとした鹿芝居をしたりするイヴェントである。ここのところ毎年のやうに開催されてゐる。
一番盛り上がるのは市馬による「俵星玄蕃」なのだが、それはおく。
先月の「忠臣蔵でござる」で、昇太がマクラにそんな話をしたのだつた。
「好きなことを公言してゐると、実現する」みたやうな話を。
春風亭昇太といへば城好きで有名で、ゆゑに城絡みの仕事などもしてゐる。
また城好きの一環か、鎧も好きで一度は着てみたいと思つてゐたのださうだ。
「鎧を着てみたい」とあちこちで喋つてゐたところ、大河ドラマ出演の話があり、それで去年の「軍師官兵衛」への出演とあひなつたのらしい。
昇太は熱海五郎一座で芝居に出てゐるといふ。ゆゑに演技には問題もなかつたのだらう。見てないからわからないけれども。
そんなこんなで、夢がかなつた。
それもこれも、好きなことを公言してゐるからだ。
そんな話だつた。
なるほど、やつがれの夢、といふと大げさだが、やつてみたいことその他が実現しないのは、公言しないからなのかもしれない。
あれが好き、これがやりたい、といふやうなことをあまり云はない。
云ふとしたら、確かに好きだしやつてはみたいと思ふけれども、自分の中ではそんなに優先順位の高いものではないことが多い。
といふか、そんなことばかりだ。
ほんたうに好きなものややりたいことについてなんて、早々口に出せるか。
さう思つてゐる。
それに、先週も書いたやうに、自分の好きなことは例外なく「くだらない」と思つてきたからね。
そんなくだらないことを他人様にお聞かせするつて、それはどうよ。
さうも思ふ。
くだらないから一所懸命にもなれない。
云ひ訳か。
それはさうだな。
それに、「公言すると実現するから」といふので他人様にふれてまはるやうになつたら、あさましくはあるまいか。
あさましい。
どう考へてもあさましい。
昨今「あさましい」なんぞといふことばも滅多に耳にしなくなつたが、これは明らかにあさましいことである。
などといつて黙つてゐたら、いざ死ぬ段になつて、「あー、もつとあれが好きこれをしたいと云つておくのだつたなー」などと思ふかもしれない。
そのときの後悔よりも、いまはあさましさに耐へるべきか。
如何。
« その後の早寝早起き | Main | 「三国志談義」を読む »
Comments