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Thursday, 04 December 2014

川本喜八郎人形ギャラリー 木曽挙兵

渋谷ヒカリエにある川本喜八郎人形ギャラリーの入り口を入つて左に折れて真正面にあるケースには、「木曽挙兵」といふ題名がついてゐる。

ケースの向かつて左端にゐるのは、赤子を背負つた斎藤実盛である。
若い。
こどもを背負つてゐるので、腰が曲がつてゐるし、そんなに若々しくは見えないかもしれないが、しかし、若い。
斎藤実盛といふと、なんとなく「お爺さん」といふ印象がある。
保元の乱とか平治の乱のときは若かつたんだらうけれど、はじめて知つた逸話が、「老人とあなどられないやう髪の毛や髭を黒く染めて戦つてゐた」といふ話だからなあ。当然眉も染めてゐたのだらう。或は眉は白いままだつたのかなあ、「白眉」とか云ふて。それぢやあ三国志か。
もとい。
説明には、実盛は三歳の駒王丸の命を助けた、といふ旨のことが書かれてゐる。
すると、背中に負つてゐる赤子は誰であらうか。三歳にしては幼すぎる感じがする。
こどもをおんぶしてゐる関係だらう、自分とこどもの上から女物の小袖かなにかを羽織つてゐる。
この衣装の色がふんはりとやはらかい色なのが、余計に実盛の困惑した表情を引きたててゐる気がする。
なんで困つたやうに見えるのかなあ。見るこちらがさう思つて見るからか。
それと、この衣装、ちよつといいものなんだよね。こどもは高貴の家のものだらうといふ想像が働く。
義仲がどれくらゐいい環境で生まれてきたのかはチト謎ではあるけれどもね。義朝が東に下つた後嫡男になつた義賢は、結局廃嫡されてるし。

その右側手前には駒王丸と駒王丸のしとめただらう狼がゐる。
駒王丸は片足を前に出して体重をかけ、もう片足は後ろに長くのばしてゐる形。狼のやうすを窺ふやうにしてゐる。
この駒王丸が凛々しいんだなー。
考へてみたら、この駒王丸の子が表のケースにゐる義高だ。父子して凛々しい。
身につけてゐるものは麻か綿か、いづれにしても質素なもので、身軽な感じがするし、青系なのでさはやかさもある。

その駒王丸がしとめただらう狼は、見るからに「これ、羊の毛だよね」といふ素材でできてゐる。
赤い舌を出して、苦しさうではあるものの、なんとなく可愛い。
羊の皮ならぬ羊の毛をかぶつた狼だからか。

その駒王丸と狼とを見守るやうにして立つてゐるのが、中原兼遠だ。
人形劇で見たときはもうちよつとやさしさうだつたやうな気がするが、わりと「食へない親父」といつたやうすで立つてゐる。
目が細いからさういう感じがするのかな。
状況からいつて、駒王丸を見守つてゐることは確かなので、さう思つてみるとまた印象は変はるのかもしれない。
茶色系のこれまた簡素な衣装で、鄙の人らしい感じがする。

その右側手前には、根井幸親、楯親忠、樋口兼光、今井兼平の義仲の四天王が並んでゐる。
幸親は、髭面の年相応に落ち着いた感じの武将といつた趣だ。ちよつと年寄りだからさうなるか。
草摺が、焦茶色からだんだん薄くなつてゆくグラデーションになつてゐて、渋い。いい。昨日書いた和田義盛の海松茶とどちらがいいかといふくらゐ、いい。
カシラを含め人形としての作りがさうなんだらうけど、ちよつと重鎮めいたところもある。

それで、隣にゐる親忠がより若くて張り切つてゐるやうに見えるのだらう。
表情にもどこかしら生意気盛りといつたやうすが見える。
兼平もちよつと似た感じだが、兼平の場合は「生意気」といふやうには見えない。
親忠は若さゆゑの血気盛ん、兼平はもうさういふ性格、といつた感じかな。
衣装が青いのも、若さを強調してゐるやうに思ふ。
ところで親忠は幸親のこどもである。
この時代の人つて、親子とか兄弟とかで名字が違ふのがまたややこしいんだよね。大庭景親と俣野五郎とか、ここでも中原兼遠、樋口兼光、今井兼平とか。

その樋口兼光は、四人の中では一番落ち着いた感じに見える。
幸親のところでも「落ち着いた」と書いたけれど、それは年相応の落ち着きで、樋口二郎はちよつと賢さうに見える。
芝居ものにとつて樋口二郎といふと、「ひらかな盛衰記」の「逆櫨」だ。見るより先に樋口二郎を知つてゐたので、「なぜ樋口二郎が舟に乗つてゐる?」と驚いたものだつたけれども、いまではまつたく違和感がない。
さういふ目から見ると、渋谷の樋口兼光はとても落ち着いたやうすに見えるんだなあ。なにしろ、「逆櫨」の樋口は最後髪の毛を捌いて顔に血糊をつけて大立ち回りを演じるからね。
草摺は赤茶、とでもいふのかなあ。梶原景時のときも「明るい茶色」と書いたけれど、平三の方は赤茶で、樋口は漆器の朱をちよつと暗くしたやうな色に見える。
以前もちらつと書いたとほり、今回茶色系の衣装の人形が多くて楽しい。茶色にもいろいろあるんだなあとつくづく思ふ。
朱漆のやうな色の鎧が、ほんのちよつぴり色気を醸し出してゐるやうな着もする。

兼平は、草摺などが革である。
今まで見て来た中で、そんな鎧を着てゐる人は見たことがない。
木曽の山中でしとめた獲物から作つたんだらうか。
そんな想像をしてしまふ。
親忠のところでちらつと書いたけれど、兼平はきかん気の強さうな表情をしてゐる。
兄(樋口)が落ち着いてゐると、弟はやんちやになるのかもしれない。
いや、人形劇の樋口が落ち着いてゐたかどうかはよくわからないのだが。
革の鎧といふのも暴れん坊つぽさを強調するのかもしれないな。紐で作るより強さうだもの。

四天王の背後には、両手に花の義仲がゐる。
向かつて左側に巴、右側に葵、ともに馬上で長刀をかまへてゐる。
いやー、「愛・平家物語」ではありませんか。
などと云ひつつ、葵が義仲を独占しやうとして、巴とその子とに義仲を会はせないやうにする下りでは、「はいはい、わかつたから物語を進めやうぜ」と思つてしまつたやつがれである。
なんか、あんまし、さういふのに興味がないのだ。
巴は、白い馬に乗つてゐる。
飯田にゐる巴よりもカシラはおとなしげな気がする。
鉢巻(なのかな)はきんきらきんだ。
射籠手などに巴紋があしらはれてゐて、いろいろ細かい。
草摺は赤系で、微妙にグラデーションになつてゐる感じかな。
赤は強い色ではあるが、巴の印象は、ふんはりとやさしげな感じである。
「巴御前」といふと、いさましい女武者と思つてゐたが、だいぶ考へが変はつた。

葵は鹿毛の馬に乗つてゐて、右側を睨んでゐる。
その先に山吹がゐるのか、それがわかつてゐたら射られたりはしないので、単に何か気配を感じてゐるのか。そんな感じだ。
葵もまた、射籠手などに葵の文様があしらはれてゐる。
草摺は白が基調で真ん中に三角形に色が配置されてゐる感じ、とでもいはうか。黄色や赤、明るいお納戸色が使はれてゐる。
白い鉢巻にいろいろと装飾されてゐる。
目の動く人形といふこともあるが、その表情はきつい。見るからに気が強さう。

そんな巴と葵とのあひだに、義仲がゐる。
黒い馬に乗つてゐて、馬はわづかに前脚をあげた感じで、義仲はそれを制してゐるといつた趣だ。
右の方を睨むやうにしてゐて、頼朝のところにも書いたやうに、頼朝を見据ゑてゐる心なのだらう。
義仲は、野生児が成長するとかうなります、といつた感じである。
草摺は緑色のグラデーションで、これが実にいい緑なのだ。緑にもいろいろあるけれど、草を思はせるやうな色の濃い薄いなところがどこかさはやかである。
衣装はすこし明るい感じの紺地に金色で模様が入つてゐて、射籠手には赤が配されてゐたりする。
下手をすると色気違ひのやうになるところなんだが、きれいにきまつてゐるんだよなあ。
頼朝はつめたい感じがするけれど、義仲は熱血漢。
そんな風に見える。

葵の右側には、山吹がゐる。
ひざをついて弓を引き絞り、今にも矢を放たんとしてゐる。
衣装は質素に綿素材だらう、色は赤の強い明るい小豆色といつたところか。髪は垂らして後ろで束ねてゐる。
火曜日まで飯田にゐた山吹は憎悪の表情でとても怖かつた。
渋谷の山吹からはさういふ印象は受けない。
説明によると山吹は葵付きだつたが、ひよんなことから義仲の目にとまり、それを妬んだ葵によつて雑兵に落とされてしまふのらしい。
今まさに恨みを晴らさうといふ瞬間に、恨みはわすれてゐるのかもしれない。

ケースとケースとのあはせ目部分には、「平家物語」の垂れ幕を背負つて覚明が立つてゐる。
手には巻物を持つて、ぐつと手前に差し出してゐる。
覚明も火曜日まで飯田にゐた。
飯田の覚明は、これも食へない親父といふか、胸に一物ありさうな感じの坊主だつた。
渋谷の覚明は、非常に neutral な表情をしてゐる。
巻物をつきだすやうにしてはゐるものの、その表情は穏やかで、心もおそらく鏡面のやうな水の如しといつた感じなのではあるまいか。
「飯田の」とか「渋谷の」とか書いてはゐるけれど、おなじ渋谷に飾られてゐても、前回と今回とではまた違つた趣なのがおもしろいんだよね。それで行くのをやめられない、といふ話もある。
覚明は義仲の参謀的存在だ。飯田で見たときは、陰謀家かなといふ気がしたが、渋谷の覚明はまちつとおとなしい感じだ。
垂れ幕を背負つてゐるから、さう見えるといふこともあるのかもしれない。


外のケースと「南都炎上」についてはこちら
「二人義経」についてはこちら
「令旨発す」についてはこちら
「頼朝蜂起」についてはこちら

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