Beeton School Irregulars: NHKスタジオパークの「シャーロックホームズ」展
11月30日から12月28日まで、NHKスタジオパークで「シャーロックホームズ展」が開催されてゐた。
現在ロンドンでも「シャーロックホームズ展」が開催されてゐる。来年の4月までだつたかな。
最初のころ「シャーロックホームズ展」でWeb検索をかけると、ロンドンの方ばかりがひつかかつてきて困つたものだつた。
渋谷のNHKには、11月2日にも行つた。
このときは「NHK文化祭」といふ催しで、「パペットエンターテインメント シャーロックホームズ(以下、人形劇の「シャーロックホームズ」)」の人形などが展示されると聞いて、一も二もなく行つた。
そのときのことはこちらに書いた。
その後、11月30日にも行つて、12月28日にも行つた。
こんな短期間にこれだけNHKに行つたのなんて、人形劇三国志以来かもしれないなあ。
昔話はともかく。
「シャーロックホームズ展」では、日曜日に実演ワークショップなるものが開催されてゐた。
なんと、実際に人形遣ひの人々が目の前で人形を操つてくれるのらしい。
行きたい!
行きたいだらう、それは。
それに、行けば謎がとけるかもしれない。
ホームズのカシラのからくりがどうなつてゐるのか、といふ謎が。
「新・三銃士」のときもさうだつたが、ひとりの人形で目の閉ぢるときと目が横に動くときとがあるのが気になつてゐた。
文楽の人形のカシラの場合、通常はひとつのカシラでは目を閉ぢるか目が横に動くかどちらかしかできない。
人形劇三国志のカシラなんかもさうで、そんなわけで周瑜は目をかつと見開いたまま死ぬし、孔明には目が横に動くカシラがあつたりするわけだ。
でも、ひとつのカシラで目を閉ぢたり横に動かしたり、できないことはない。
といふことを、今年の九月、「不破留寿之太夫」といふ文楽で見て来た。
このお浄瑠璃の主人公・不破留寿之太夫(フォルスタッフ)は、目を閉じたり横に動かしたりその他さまざまなことができた。
胴串のまはりがすごいことになつてゐるんだらうけど、できないことはない。
さういや人形劇三国志の仲達のカシラには右眉と左眉とが別々に動くからくりが仕込まれてゐた。
もしかしたら、ダルニャンやホームズのカシラも、不破留寿之太夫のやうなからくりが入つてゐるのかも。
当時まだ「シャーロックホームズ 冒険ファンブック」を入手してゐなかつた。
最寄りの書店になかつたからである。
読んでゐれば訊くこともなかつたのにねえ。
11月30日に行つて、その場にゐるスタッフの方に質問をして、4人目くらゐでやつと正解にたどりついた。
もしかして、質問コーナーが増えたのはそのせゐだつたりするのだらうか。
それはあまりにも自意識が過剰に過ぎるか。
といふわけで、11月30日初日の第三回目のワークショップに行つたのが最初である。
なぜ第三回目かといふと、まあ、有り体に云つて、起きられないからだな。
開始30分前に整理券が配られるといふので、配布5分前くらゐにたどりついたら、余裕で一番だつた。
な、なんだかものすごく好きな人みたやうぢやん。
と、挙動不審になりつつも、「001」と判子の押された整理券をもらひ、展示を見乍ら開始を待つ……つもりだつたが、既に実演ワークショップの会場で場所取りをしてゐる人もゐたので、この日は最前列ほぼ中央やや下手よりで開始を待つた。
今回のシャーロックホームズ展で一番よかつたのは、人形遣ひの方々から直接お話を伺へたことだ。
なぜか人形遣ひの方といふのはあまり前面に出てこない。
初回の実演ワークショップでは、操演の方に直接質問をしてはいけない、と聞かされた。
おそらく、人形遣ひはあまり表に出てはいけない、といふ不文律があるんだらう。
文楽だと出遣ひとかあるのになあ。
人形劇の「シャーロックホームズ」では、めづらしくキャストの欄で川口氏と友松氏とが最初に出てゐて、このおふたりがホームズとワトソンとを遣つてゐるんだらうなあとわかるやうになつてゐる。
これまでの人形劇ではなかつたことだ。
人形劇三国志なんて、人形操演部分のキャストを見ただけぢや誰が誰を遣つてゐるのかなんてさつぱりわからないよ。
人形遣ひが誰かはわからなくていい。
人形が演じてゐるのだから。
それはさうなんだらうけれど、だつたら声優が feature されるのはをかしいぢやない、と思ふわけだ。
だつて、人形が喋つてゐるんでせう。
声優が出てきて話を聞くことができるのなら、人形遣ひの話だつて聞きたい。
その念願が叶つた。
まことにありがたいことである。
実演ワークショップは、以下のやうな段取りになつてゐた。
- 司会のお姉さんの挨拶とワークショップの説明
- モニタを使用してシルエットクイズ三題(出てきたのはハドソン夫人、アドラー先生、ロイロット先生)
- 人形遣ひの川口英子氏と友松正人氏とが登場。手にはそれぞれ操演してゐるホームズとワトソン
- モニタで第一回のホームズとワトソンとの出会ひの場面を視聴
- 出会いの場面の音声だけ流して、目の前でおなじ場面を再現
- 会場から有志を募つてドレッバーとスタンフォードとを使つた操演
- 川口氏と友松氏とによるドレッバーとスタンフォードの操演
- 〆の挨拶
実演ワークショップをつづけるうちに、どこかで質問コーナーが増えたやうである。最終日にはあつた。
人形遣ひのおふたりは、出てくると会場をぐるりと回つて、ホームズやワトソンと握手させてくれたりした。
やつがれは初日はワトソンと握手できた。手はふしぎとやはらかな感じだつた。
その後、人形劇についてや人形遣ひについて、それぞれ語つてくれた。
友松氏の話が印象深かつたなあ。
人形は、表情が変はるわけではない。
人形遣ひが場面場面にあはせて、ちよつとうつむいてみたり、元気に空をあふいでみたりなどと動かしてみるけれど、その人形が喜んでゐるのか悲しんでゐるのか、どんな気分でゐるのか、それを感じ取るのは見る側である。
そんなやうな話だつた。
人形はなにも云はない。
今回は展示といふことで命あるもののやうにその場に佇んでゐるけれど、横浜人形の家に飾られてゐる文楽人形を見ると「木偶」であることがよくわかる。
横浜人形の家のお染ちやんの展示はなんとかならないのかと思つてゐるんだが、多分、この「木偶」が床の語りと三味線に合はせて人形遣ひが遣ふとまるで生きてゐるやうに動く、といふのを見せたいんだらうなあと思つてはゐる。
お染ちやんの背後で、「妹背山婦女庭訓」の道行のダイジェストを流してゐるからね。
NHKの人形劇の場合も、人形にセリフがあり、BGMもついてゐる。
そこから人形のやうすを推し量ることができるやうになつてゐる。
しかし、見る方は、そんなことはほとんど意識してゐない。
目に映る人形を見て、そこからいまこの人はなにを考へてゐるのか、どんな気持ちでゐるのかを感じ取つてゐる。
そんな気がする。
あと、人形劇の人形つて、ちよつとした仕種とかがとてつもなくチャーミングだつたりするんだよね。
人形浄瑠璃の人形が初音ミクの歌にあはせて踊る映像がある。
これのなにがステキかといふと、ネギをふりまはすところばかりではなくて、ちよつとうつむく、とか、ちよつと扇で顔を隠すとか、ちよつと空をあふいでみるとか、さういふ些細な「ちよつとした仕種」がメチャクチャ可愛い、といふことだ。
実演ワークショップであらためて感じたことは、ホームズはまばたきするところが実に魅力的といふこと。なんといふか、目をぱちりとするだけで、とても趣があるのだ。
川口氏は「ホームズは考へる人なので「静」を意識した動き」といふやうなことを語つてゐた。
「静」な中にも動きあり、といふのがこのホームズのまばたきにあらはれてゐる。
あと、目を閉じるカシラのときの横目を使つてゐるやうな表情がとてもいい。
目が動くはずがないのに、「あ、いま、目が横を見たな」といふ、そんな感じがするときがある。
そこが実に趣深い。
対するワトソンは振りの大きな動きになるわけだが、友松氏は「止まるところが大事」といつてゐた。それ、「小さいおともだち」向きの発言ぢやないよね、と思ふたけれど、考へてみたら、上に書いた人形の話もさうか。
ワトソンのしぐさで好きなのは、頭をかくところだなあ。あのちよつと照れたやうな面映げな感じがいい。
……長くなつてしまつたな。
やつがれは、シャーロキアンではない。
シャーロック・ホームズものはひととほり読んではゐると思ふけれど、読んでゐないものもあるかもしれない。
しかも、読んでゐてもこども向けの本でしか読んでゐない話もある。
そんなやつがれだが、人形劇の「シャーロックホームズ」は毎回楽しみにしてゐる。
初回の実演ワークショップの〆の挨拶で、川口氏が「人形劇を作つてみてください」と云つてゐた。
あの場にゐた小さいおともだちの中に、実際に作つてくれる人がゐるといいなあ。
« 2014 タティングレース模様 | Main | ふりかへる »
TrackBack
Listed below are links to weblogs that reference Beeton School Irregulars: NHKスタジオパークの「シャーロックホームズ」展:
Comments