川本喜八郎人形ギャラリー 二人義経
渋谷ヒカリエにある川本喜八郎人形ギャラリーの第五回展示のうち、入り口を入つて左側正面にあるケースには、「二人義経」といふ題名がついてゐる。
ケースの向かつて一番左端にゐるのは平時忠である。
衣装は前回の展示のときとおなじかな。透ける焦げ茶の地に青海波の模様。
前回は、今回覚明の立つてゐるところにゐて、「平家物語」といふ垂れ幕を背負つて立つてゐた。向かつて左の方向を睨むやうな視線がよくてなあ。
今回は逆の方向を見てゐて、しかし、さほど悪さうな表情をしてはゐない。前回があまりにも悪い人めいた表情だつたからさう思ふのかもしれないけれど。
今回のカシラはちよつ年をとつてからのカシラだから、といふのもあるのかな。前回は悪さうに展示した、といふのもあるのかもしれない。
今回は右側をそれとなく窺つて、「若いもんは……」と思つてゐるやうな感じに見える。
といふのは、その右側に夕花と義経とがゐるからである。
ここも「愛の平家物語」かとも思へるが、そんなやうな、さうでもないやうな感じがいい。
夕花は時忠の娘だ。「新・平家物語」のオリジナルキャラクタである。
ギャラリーにある説明にも書いてあるやうに、夜更けに時忠の元を辞す義経に、危険だから女の格好で行くやうに、と、おんなもののかつぎと下駄とを差し出す場面を再現してゐる。
夕花が、これまた「優にやさしい」顔立ちで、とてもよい。全体的に桃色な印象なのも可愛い。桃色といふよりはピンクかな。
かういふ色の着物つて、結構むづかしいやうに思ふ。
ここ一年ばかり、新歌舞伎もので中村米吉や中村梅枝、中村虎之助といつた若手の役者がかういふ色の衣装で舞台に立つてゐたけれど、みなそれぞれに普段は可愛い(或は可愛くみせてゐる)のに、それほどでもなかつたんだよなあ。
もともと可愛いんだから、衣装はまちつと地味でもいいのに、と思つたりもした。
多分、かういふ色が似合ふやうになるのつて、大変なんだらう。
似合つてしまふ夕花はすごいな。
その夕花の向かひに、女物の下駄を履いた義経が立つてゐる。足下には脱いだものだらう草鞋がある。
説明を読むと、まづ足下に目がいく。白い素足に赤い鼻緒がなんともいい。袴をちよつとたくしあげてゐて、ふくらはぎあたりまで見えるのも効果を上げてゐるのかも。
それにしても、人形劇の義経はいい顔をしてゐる。
こちらも男にしては「優にやさしい」顔立ちながら、凛としてゐてどこか涼しげでもある。
人形劇で見ると、凛々しくさはやかでゐて、どこか母恋ひ子の面影もあつたりするところがいいんだよなあ、義経は。
今回ちよつと困つたやうなやうすにも見受けられるのは、夕花から思はぬ厚意を受けたからか。
前回の展示で敦盛が着てゐたのと似たやうな色の衣装で、義経の方がちよつと華やかかな。赤みか黄色みがちよつと強くて、全体的にちよつと淡くなつてゐのかもしれない。これがまたよく似合ふんだ。
この後、夕花の手にしてゐるかつぎをかぶつて五条大橋に向かふ義経は、そこで弁慶と出会ふわけだが、それはまた別の話、といつたところか。
来年の今ごろは、鎧姿の義経に会へるのかな。
義経の右側には、行宗がどつかと座してゐる。
こちらはカシラに視線が行くね。
特に、口元。不揃ひな出つ歯が特徴的だ。
新宮十郎の息子といふことになつてゐる行宗は、十郎によつて義経に仕立てられ、都で盗賊のやうなことをしてゐる。手にしてゐるのは覆面かな。
つかまりはするものの、どこかすばしこい印象を受けるのは、説明にさう書いてあるからなのか、それとも、目の感じかな。
その隣、ケースの一番右端にゐるのが新宮十郎こと行家である。
行家には、あまりいい印象がない。デカい話をぶちあげては、うまく行かなくなると逃げてしまふ人、といふイメージがある。
今回の展示でいふと、時忠より行家の方がよほど悪さうだ。悪だくみとかしてさうな雰囲気がある。
今回の展示の時忠には、敵ながらなんとなく義経を認めてゐるといふ大きさがあるからね。
行家の衣装は全体的に茶色系で、ところどころにいろんな模様が散らしてある。
今回の展示には全体的に茶色系の人が多いな。をぢさんが多いからかな。茶色といつても赤みが強かつたり緑がかつてゐたり、紫つぽかつたりいろいろなので、見てゐてとても楽しい。
以下、続く。
外のケースと「南都炎上」についてはこちら。
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