「消えたボーイフレンドの冒険」の謎
やつと「人形劇シャーロックホームズ」を見ることができた。
八月に放映された新作三点を録画で見た。
平岩紙が出てゐる!
だとか、
浅野和之がまた出てきた!
だとか、
毒蛇も逃げてくモリアーティ教頭がステキ過ぎる!
だとか、いろいろあるのだが、今回は「消えたボーイフレンドの冒険」の回について書く。
実は昨日の「Blogの文章」は、「消えたボーイフレンドの冒険」を見てゐて思ひついた内容だつたりする。
ことの核心に触れる部分もあるので、未見の方とはこちらでおさらばでござんす。
あ、「二都物語」の核心にも触れるので、ネタバレのお嫌な方もこちらでお別れでござんす。
「消えたボーイフレンドの冒険」は、「消えた花婿事件」の翻案である。
基本的な内容は原作とおなじで、ちよつとしたアレンジが加へられてゐる。
「消えたボーイフレンドの冒険」の冒頭、ワトソンが本を手にしてゐる。
それを見て、ホームズが「小説を読むなんて気が知れない」といふやうなことを云ふ。
すると、ワトソンは「小説はいろんなことを教へてくれるんだよ」といふやうなことを返す。
このとき、ワトソンが手にしてゐる本の題名はA Tale of Two Cities。
ディケンズの「二都物語」だ。
人形劇の「シャーロックホームズ」の設定が何時代なのかはわからない。
勝手に現代だと思つてゐたが、具体的な憑拠はない。
むしろ、もしかするとちよつと古い時代なのかな、と思ふことの方が多い。
懐中時計なんかが出てくるし。「SHERLOCK」とちがつてPCとかiPhoneとか出てこないし。まあ、PCとかが出てこないのは、寮に持ち込み禁止なのかもと思はないでもないけれど。
あら、こんな調子では「シャーロックホームズ」を見る資格がないか知らん。
もとい。
もし人形劇の「シャーロックホームズ」の時代設定が原作とおなじだとしても、ワトソンが「二都物語」を手にしてゐてをかしいところはなにもない。
といふわけで、やつぱりちよつと昔の設定なのかなあ。
時代設定はとりあへず脇においておくとして。
なぜ、ワトソンが「二都物語」を手にしてゐたのか。それを考へたい。
ディケンズなら、ほかにもいくらも本がある。
本邦では「クリスマス・キャロル」とか「オリバー・ツイスト」の方が有名なんぢやないかなあ。
「オリバー・ツイスト」はさうでもないか。でも、やつがれがこどものころのお子様向け文学全集には「二都物語」はなかつたやうに思ふ。
ディケンズにかぎる必要もまたない。
舞台はロンドン郊外の学校といふことだから、イギリスの作家の本にしたかつた、といふことはあるかもしれない。
しかし、イギリスの作家なら、ディケンズ以外にもたくさんゐる。
小説ではないが、イギリスといへばシェイクスピア、といふ向きもあらう。
「シェイクスピア物語」を手にしてゐたつていい。
しかし、ここは、「二都物語」でなければならない。
なぜといつて、「消えたボーイフレンドの冒険」は、秘めた戀の物語だからだ。
それも、絶対云ひ出せない、云つてはいけない戀だから。
だから「二都物語」なのである。
「二都物語」は、革命前のフランスで、貴族に監禁された父を持つ娘とその貴族の親類の男との物語である。
かんたんに書くとさうなつてしまふが、ここにもうひとり、男が登場する。
貴族の親類の男にうりふたつで、ひどくだらしない男。
本来は才能にあふれてゐるはずなのに、その能力を発揮する術を持たない男。
そして、貴族に監禁された父を持つ娘に戀をしてしまふ、そんな男。
男は、娘に告白しやうとして、娘は自分に瓜二つの別の男を愛してゐることを知り、身を引く。
「忘れないでほしい、あなたとあなたの愛するもののために命をかける男のゐることを」と云ふて。
この身を引いた男は、自分とそつくりの男の身替はりになつて、ギロチンの露と消へる。
ワトソンはこの物語を読んでゐた。
したがつて、秘めたる戀心のなんたるかを理解してゐた、といふ寸法なわけだ。
まあ、女心のなんたるかを「二都物語」だけで理解できるかどうかは謎だけどなー。
むしろ、マダム・ドファルジュの気持ちなんてわからない方が人生幸せかもしれないしなー。
「消えたボーイフレンドの冒険」といふ題名だけで、わかる人には最後のオチまですべてわかつてしまふといへばそれまでだが、ワトソンが持つてゐるのが「二都物語」といふことで、
「原作とは違ふんですよ。犯人は相手を愛してゐるんですよ」
といふことがわかるやうになつてゐる、とも云へる。
うがち過ぎ?
まあ、さうかも知れんな。
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