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Wednesday, 27 August 2014

只有常山趙子龍

8/22(金)、飯田に行く前に渋谷ヒカリエの川本喜八郎人形ギャラリーに立ち寄つた。

……あきれるよな。
やつがれ自身もどうしたものかな、と思ふてはゐる。

飯田で一泊するのなら、午後出発のバスの方が楽である。
これまで乗つた経験からいくと、午後の中央道下りはそれほど混んでゐるといふ印象はない。朝行くよりもいいんぢやあるまいか。

などと云ひ訳しつつ、まあ、つまりは、行きたいだけなんだな。

朝一番のヒカリエには、たいていの場合やつがれしかゐない。
渋谷区の職員さんだらう、鍵を開けて照明をつけて、職場の方へと去つてゆく。誰もゐないところでぼんやりと展示を眺めてまはる。

この日は違つた。
先客がゐたのである。

祖父母につれられた小学校低学年くらゐの女の子が来てゐた。
お祖父さんはよくわからないが、お祖母さんは歌舞伎とかも見る人のやうであつた。俊寛の話を孫にしてゐたからだ。

孫は蒋幹から順番に三国志の人形を見てゐて、ある人形の前で止まつた。
趙雲だつた。
「趙雲だ!」
と、知り合ひででもあるかのやうに叫んでゐた。
どうもお祖母さんと孫との会話を漏れ聞くに、孫は三国志を読んだことがあるのらしい。字がいつぱいつまつた本、といつてゐた。
お祖母さんが、
「ぢやあ、孔明も知つてゐるでせう」
と訊いてゐたが、孫は特別乗り気でもないやうな感じで、
「うん」
とうなづいて、
「趙雲、強いんだよ」
と、あくまで趙雲にしか興味のないやうすで付け足すのも忘れなかつた。

いや、そらまあ趙雲は強いかもしれないが。
いつたいどんな三国志を読んだのだらう。
気になるなあ。

三国志で強いつて云つたら、呂布とか関羽とかぢやないのか。
それは考へのこりかたまつた大人の考へることで、なにも知らないところに三国志を読んだら、さう思ふばかりでもないのだらうか。

確かに長坂坡の趙雲の強さはちよつと神憑つてゐるけどな。
神といふか死者の加護もあつたくらゐだし。

だが待てよ。
彼女は別に長坂坡の趙雲のくだりを読んで「趙雲つて強い」と思つたのではないのかもしれない。
なにかもつと違ふ場面を読んで、さう思つた可能性もある。

違ふ場面といつて……さうだなあ。たとへば江東にゐる孔明を迎へに行つたとき、とか?
或は孫夫人との婚礼の件で玄徳のお供をしたとき、だらうか。
はたまた、江東に帰らうとする孫夫人の手から阿斗を助け出したとき?

うーぬー。
なんだかどれも違ふ気がする。
訊いてみればよかつたか知らん。

ところで、渋谷の趙雲は、飯田の趙雲よりもすつきりした顔立ちをしてゐる。
渋谷の趙雲の方が若干色白なのかな。眉も飯田のcounter partよりもすつきりしてゐる。

飯田の趙雲、といふよりは、人形劇に出てゐた趙雲は、真正面から見ると困つたやうな怒つたやうな顔をしてゐる。眉根がぐつと寄つてゐて、不機嫌さうに見えるからだらう。
しかし、人形劇を見てゐて趙雲に「不機嫌さう」といふ印象を持つたことはない。
ここでも何度か書いたやうに、「人形劇三国志」の趙雲といへば、「いつもさはやか好青年」だ。「人形劇三国志」中、一等「凛々しい」といふことばの似合ふ男、それが常山の趙子龍である。

これまた前回も書いたと思ふが、いま飯田にゐる趙雲には困つてゐるやうなやうすや不機嫌なやうすは見られない。
ちよつとうつむいてゐて、至極神妙なやうすに見受けられる。
そして、なんとなく、喋つてゐるやうすが脳裡に浮かぶんだなあ。
あの聲が聞こえてくるやうな気がする。
渋谷の趙雲には絶えてないことだ。

凛々しい、とか、すつきりしてゐる、といふ意味では、渋谷の趙雲の方がよつぽど凛々しくてすつきりしてゐる。
趙雲は、渋谷で見たことのある三国志の人形の中では、人形劇のときとほとんど変はつたやうすの見えない人形だ。
目に見える違ひといつて、衣装のほかは、とにかく「よりすつきりした」といふ点に尽きる。
それは、おそらく、「人形劇三国志」の収録をするうちに、「趙雲とはかうした人物である」といふ印象が、川本喜八郎の中で強くなつていつたからなのではないかなあ。

といふやうなことを、ほかの人形にも感じることもある。
だからまだお目見えしてゐない残りの四人(みんな人間であるとして)がとても気になるのだつた。

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