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Thursday, 15 May 2014

川本喜八郎人形ギャラリー 厳島 後篇

四月二十五日から展示中の渋谷ヒカリエは川本喜八郎人形ギャラリーについて、今回は平家物語のうち「厳島」のつづきを書く。

さて、中央に立つ清盛の向かつて右斜め前には、徳子がゐる。
覆ひかぶさるやうにして、琴を弾じてゐる。
衣装は十二単。
うつむいてゐるのでよく見ようとするとチト苦しいが、ぱつと見たところ、実に川本美人といつた趣である。
印象としては嫁ぐ前だよねえ、と思ふのだが如何に。

といふのは、その背後に二位の尼と安徳天皇がゐるからである。
安徳帝は、この後出てくる禿とおなじやうな髪型をしてゐる。おなじ衣装を着て一緒にゐたらどちらがどちらかわからないくらゐだ。
といふのも、「なにもおわかりでない」といつた印象の顔立ちだからだ。
御年から考へたら仕方がないことではある。
だいたい、だいぷ年上だらうに、禿にはどこか頭のねぢが一本か二本、足りないやうな感じがするものな。
二位の尼は、そんな安徳帝に寄り添ふやうに立つてゐる。心持ちうつむいた顔に、皺の影が見える。
時子は、二回目の展示のときにゐた。目のきつぱりとした聡明さうな顔立ちだつた。
今回の展示では、どこか気弱げに見える。
一族の行く末を見通してゐるのではないか。
そんな気がしてならない。
以前、飯田で見た新たに作つた二位の尼は、毅然としたやうすだつたがね。見惚れたものである。
渋谷の二位の尼も、飾りかたによつてはさう見えるのかもしれない。

徳子の隣が忠度。
衣装の色は、敦盛の衣装をもつと男らしくしたやうな感じである。
上が代赭で、下が浅葱色、とでもいはうか。
忠度は、小鼓を打つてゐる態。
これがまたなかなかきつぱりとした表情でいい感じなんだよねえ。
平忠度といふと、古い世代には「薩摩守をきめこむ」なとどいふ、忠度にとつてはよろこばしくない言い回しで有名だ。
春秋に富む方々のために書いておくと、「薩摩守=忠度=ただ乗り」といふことで、無賃乗車のことをさう云つたのである。
「平家物語」なんかには「詠み人知らず」の逸話が取られてゐたりするし、かうして見るとなかなかの武人に見えるし、おそらく鼓もよく打つのだらう。
最近は「薩摩守をきめこむ」などといふ人間もゐないやうだ。
忠度もさぞかし安堵してゐることだらう。

忠度の隣にゐるのが宗盛。
こちらは大鼓をかまへてゐる。
衣装はベージュのやうな色合ひで、ほかの人々のやうに透けた素材ではない。裾に菊だらう、刺繍された花が散らされてゐる。
この宗盛の顔つきが、「如何にも」といつた感じで、なあ。
ちよつと小太りでいいとこのボンボン然としてゐて、あまり苦労も知らぬ(宗盛はさうでもなからうが)態の、ぼんやりとした表情をしてゐる。
まあ、この男に任せたらダメだね。
と、さういふ目で見るからよけいにさう思ふのかもしれない。
少し真ん中によつた眉がさらに情けないやうすをいやましにしてゐる。
大鼓もちやんと叩けるのかどうか、といつた雰囲気すら漂ふ。

忠度と宗盛とのあひだ、後方にゐるのが頼盛である。
初老のお貴族さまといつた出で立ちで、重盛、経盛同様に蚊帳の外感が強い。
頼盛は、なにしろその衣装がいい。
渋い紫色の透ける地で、よくよく見ると市松模様になつてゐる。その上に白銀の糸で蝶が大きく刺繍されてゐる。
重盛の黒い衣装にはチトかなはねど、頼盛の衣装もいい。

宗盛の隣、ケースの一番右端には、教経がゐる。
左端の知盛と対をなす、黒を基調にした鎧姿である。
顔も、知盛は白塗りだが教経は砥の粉。眉の動くカシラであることがわかる。
知盛はゆつたりと構へてゐるやうに見える一方、教経はどこか思ひつめたやうな表情で座してゐる。余裕が感じられない、といふか、ユーモアを解さない、といふか、そんな感じがする。
知盛と教経との対照的なやうすがおもしろい。
端と端なので、見比べるのはチト難だが、今後もこのふたりには注目してゆきたい。

さて、「厳島」の一団には加はつてゐないのかもしれないが、ケースとケースのあはせめ、角のところには時忠がゐる。
背後に「平家物語」と大書した垂れ幕が下がつてゐる部分だ。
時忠の前には禿がふたり。
一方はちよつとふつくらとした顔立ちで目が細く狡猾さうで、もう一方は顔が長くびつくり目をしてゐて頭の毛が三本くらゐ足りないやうなやうすの禿である。
その背後に立つ時忠の、陰謀家めいた表情が、たまらなくいい。
どうもやつがれは、川本喜八郎の人形のうちでも陰謀家のカシラが好きでならないやうだ。
ややうつむきがちに、扇を口元にあて、左の方向を睨むやうにして、時忠は立つてゐる。
この、鋭い目線がいい。
前回の展示では、義時がそんな胸に一物ありさうなやうすで立つてゐて、やつぱり好きだつたんだよなあ。
ちよつとした展示替へがあつたら、また義時のときのやうに目が前を向くこともあるのだらうか。それもチト楽しみではある。
衣装の色は薄い茶で、青海波模様の透ける地。
今回、少なくとも「厳島」には透ける素材の衣装を身につけてゐる人形が多い。

といふわけで、「鹿が谷」「鬼界島」につづく。

「赤壁‐苦肉の計」の前篇はこちら
「赤壁‐苦肉の計」の後篇はこちら
「厳島」の前篇はこちら

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