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Thursday, 22 May 2014

川本喜八郎人形ギャラリー 鬼界島

四月二十五日から展示中の渋谷ヒカリエは川本喜八郎人形ギャラリーについて、今回は平家物語のうち「鬼界島」を書く。

「鹿ヶ谷」からの流れで、ここには三人ゐる。
ケースの奥、向かつて左側に立つてゐるのが、藤原成経である。
まんまるい顔にまんまるな目、しまりのない口元、着てゐるものはもとは貴族めいた衣装だつたらう襤褸である。
この、襤褸なやうすがとてもリアルだ。
かつて、大河ドラマ「平清盛」の見てくれが汚いのなんのと文句をつけた人がゐたといふ。
でもそれをして、「あんな風に着つつ慣れにしといふ感じを出せるなんて、なんてすばらしいんだらう」といふやうなことを云ふのたは、坂東玉三郎だつた。
渋谷の少将成経、とてもとても地元の娘さんとのlove affairなんて想像できないやうな、幼い顔立ちだ。
と、考へてしまふのが、歌舞伎の「俊寛」に慣れ親しんだものの病であらう。
芝居では少将成経は白塗りのいい男だし、着てゐるものも襤褸ではあるけれどもそれなりに身支度は整つてゐる。
それとも、渋谷の成経くらゐ親しみやすい感じの人の方がlove affairには向いてゐるのだらうか。
でもどこか呆けた印象があるんだよなあ、この成経には。

その隣にゐる平康頼も、同様に都で着てゐたらう衣装がぼろぼろになつてしまつた、といふやうな出で立ちで立つてゐる。
成経もさうだけれども、衣装の如何にも日に焼けたらう褪色ぶりがみごとだ。
成経にしても康頼にしても、「なんで鹿ヶ谷の陰謀なんかに加担したの?」と問ひかけたくなるくらゐ、無防備で怠惰な印象を受ける。「なんかの間違ひでせう」と云ひたくなるくらゐだ。
といふわけで、前回の「鹿ヶ谷の陰謀は、陰謀でもなんでもなくて、単に酒の上での戯れごとだつたのではないか」といふ仮説にうなづいてしまふわけだ。
まあ、無防備なのはともかく、怠惰なのは慣れない遠島の暮らしでさうなつてしまつたのかなあ、といふ気はするけれども。
成経が「船?」といふやうに驚いてゐて、「そんなことあるかよ。幻だらう」と康頼が云つてゐる。
そんな風にも見える。

その二人の前にゐる俊寛は、しかし、まつたく違つてゐる。
このケースの主役は俊寛なのでは、と思ひたくなる所以である。
なんたつて、ふたりゐるしね。鹿ヶ谷のときの俊寛と、鬼界島のときの俊寛と。
俊寛の衣装は、もちろんぼろぼろではある。ぼろぼろではあるけれども、上に着たものの色は少将や判官よりは濃い。もとは深い牡丹色のやうな色だつたんだらう。
膝を突いて腕を伸ばし、去りゆく御赦免船に向かつて呼びかけてゐる。
そんなやうすに見える。
髪はのび、表情には鹿ヶ谷で見せてゐるやうな不適なやうすはない。
鹿ヶ谷のカシラとはちがつて、眉が動くやうになつてゐる。
ここぞといふときに動かしたのにちがひない。
浄瑠璃の「俊寛」とはちがひ、この俊寛は不本意ながら島に置き去りにされるのだらう。
それでゐて、目にはまだ力が残つてゐる。
それがすこし不思議である。
このあと俊寛は、がつくりと力を落としてしまひ、弟子の有王丸が島にたどりつくころには、都での威勢はいまいづこ、といつた瀕死のやうすになる。
人形劇ではそこまではやらなかつたんぢやないかな。
やはり、「平家物語」もちやんと見ないとダメかー。

ギャラリー内部はこんな感じである。
今回、ギャラリーの外のケースには、妾馬……ではなくて、メカ馬が並んでゐる。
「人形劇 三国志」に出てきた騎馬兵だ。
見ればわかると思ふが、おそらく1/8くらゐのスケールの、ちいさな人形がおなじくちいさな馬に乗つてゐる、そんな人形たちである。
さう、人形「たち」である。
当時彼らはコンピュータ制御で動いたのだつた。
それで人形劇ではムリだらうといはれてゐた騎馬の動きを実現したのである。
馬につける細工によつて、落馬させたりもしてゐたといふ。
メカ馬については、「チャチい」とか「興醒め」とふ意見もある。
やつがれは、「画期的だつた」と思つてゐる。
よく見ると、一頭一頭飾り物もちがふし、人形も一人一人身につけてゐるものも得物も違ふ。顔つきだつて、多少のちがひがある。
これひとつ(といつても何人も何頭もゐるわけだが)を見てゐるだけでも、実に楽しい。

ほかには、前回も飾られてゐた川本喜八郎関連のムック本が飾られてゐる。
前回、呂布と貂蝉との写真の部分が飾られてゐた角川書店から出版された本は、今回は赤壁のころの周瑜・魯粛・諸葛亮の写真の部分が展示されてゐる。
呂布と貂蝉とは実にすばらしい写真だつた。
「もうお前しか見えないぜ」とばかりに必死なやうすの呂布にどこかうつろな表情の貂蝉といふのが、このふたりの関係をよくあらはしてゐるやうに見えた。
今回の写真は、ちよつと演出過多かなー、といふ印象はあるものの、でも三角形の緊張感をよくあらはしてゐるやうに思ふ。

平凡社から出てゐる本は、現在でも入手可能なので、興味のある向きには是非。

「赤壁‐苦肉の計」の前篇はこちら
「赤壁‐苦肉の計」の後篇はこちら
「厳島」の前篇はこちら
「厳島」の後篇はこちら
「鹿ケ谷」はこちら

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