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Wednesday, 14 May 2014

川本喜八郎人形ギャラリー 厳島 前篇

四月二十五日から展示中の渋谷ヒカリエは川本喜八郎人形ギャラリーについて、今回は平家物語のケースを見ていく。

入り口を入り左にまがつて正面にあるのが、「厳島」と名付けられた展示である。
栄耀栄華をほこる平家一門がずらりと並ぶさまは壮観だ。

さう、渋谷もさうだし、飯田もさうなんだけれども、ちよつと引いたところからケース全体を眺めるのもこれまた実に楽しい。

この「厳島」のケースがさうだし、もうひとつ平家物語のケースである「鹿ヶ谷」「鬼界島」もさうだ。
人形劇三国志でいへば、入り口を入つてすぐ左手にあるケースは、ちよつとはなれたところから眺めると、孔明が実にエラそーに見える。「三国志」と書かれた垂れ幕を背にしてケースの中央に立つた姿は、その場全体を統べるもののやうな風格がある。
三国志のもうひとつのケースの方は、ちよつと統一感に欠ける気がするが、まあ、気のせゐかもしれないし、蔡瑁・蔡中のせゐかもしれない。

といふわけで、「厳島」である。
向かつて一番左端にゐるのが知盛だ。
白い面に白の印象の強い鎧姿で座してゐて、頭には烏帽子を載せてゐる。
いい。
なんとも、いい。
清盛亡き後の平家の頭領然としてゐる。
頼りになりさう。
頼りになりさうなんだが……兄をさしおいて自分が前に出るわけにはいかなかつたのか。
はたまた軍事の才能はあつたけれども、政治の才能はチト足りなかつたのか。
いづれにしても、知盛はやうすがよい。

その斜め後方に重盛が立つてゐる。
重盛は、その場に参加してゐないやうに見受けられる。
いはば、蚊帳の外、とでもいつた感じだ。
黒字に黒の龍の模様の衣装が大変にすばらしい。
最初は刺繍かと思つたが、あれは織りで模様を出してゐるのかな。
近くで見られないのが残念だ。
衣冠束帯姿で、天をあふぐやうにしてゐる。
岳父の流刑が堪えたか。
それともみづからの寿命を悟つたのか。
我が世を謳歌する一族の中で、ただ一人、憂ひを帯びたやうすがたまらない。

知盛の隣には敦盛。
青葉の笛を吹いてゐる、といつたところか。
衣装は上が代赭といふにはもつと明るいやうな色合ひで、下は瓶覗きといふにはちよいと緑がかつた色で、華やいでゐるやうにも見える一方で、なんとなくあか抜けない感じにも見える。
実際その顔も、どことなくぼんやりとした印象を受ける顔である。

その隣には経正。
こちらも琵琶を弾いてゐる。
衣装は上が深緑といはうか抹茶色のちよつと透ける素材で(敦盛もちよいと透けるやうな素材なのは一緒)、襟元から紫色がのぞいてゐる。下は七宝模様。
敦盛よりは厳しい顔立ちをしてゐて、どことなく若いころの片岡進之介に似てゐるやうな気がする。

敦盛と経正とのあひだの後方に経盛。
重盛よりはましだけれども、若干蚊帳の外感があるのはいなめない。
衣装はベージュといふか、「蚤の腹色」とでもいはうか、渋くて地味だが、おそらく鳳凰と思はれる鳥の模様が描かれてゐる。
カシラも渋いをぢさんの顔立ち。

経正の隣が惟盛。
吹いてゐるのはしちりきだらうか。
透ける素材の青い衣装がよく似合つてゐる。ところどころに白い鳥が飛んでゐるのもいい。
人形の紹介の文章にも惟盛のことを褒めるやうなことが書いてはあるが、どうも「所詮は鳥の羽音に驚いて背走する軍の頭領」といふやうすがあることは否めない。
さういふ偏見の目で見てしまふこちらがいけないのかもしれない。
資盛はゐないんだな。

惟盛の斜め後ろ、このケース全体の中央にゐるのはもちろん浄海入道である。
清盛、ですな。
赤い法衣に金糸と黒糸とを使つた九条袈裟が重々しくも華やかだ。
清盛の出番は、これで終はりなのかな。
さう思ふと、なんだかチトさみしくもある。
初回の展示のときは、布衣の若者だつた。世に不満でも抱いてゐるかのやうな表情で、ちよつと上を見て立つてゐたけつか。
二度目の展示のときは、鎧姿だつた。今思へば、これが一番やうすがよかつたかもしれない。兜を背中にまはしてゐたつけ。
三度目、すなはち前回の展示のときは、太政大臣の姿だつた。左右に白拍子を侍らせた姿は、決して立派とはいへなかつた。それに、やはり、どこか不満げでもあつた。
今回の展示では、功成り名遂げて一門の繁栄をことほぐ姿のはずなのに、やはりどこか不満げなんだよなあ。
さう思つて見るからだらうか。
これまでの展示で、「清盛、いいなあ」と思つたことがない。
比べたら、二回目がよかつた、くらゐである。
人形劇で見るとまた違ふんだけどね。
なんといふか、一度くらゐはもうちよつと幸せさうなやうすの清盛を見てみたかつた。
そんな気がする。

といふわけで、つづく。


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