Twilight Zone
ものごとを三次元でとらへることができない。
小学生のとき図画工作の授業で直方体の石膏を使つて隣の席の子の顔を彫る、といふのをやつたことがある。
これができなくてねー。
まづ、鼻のめどをつけやうとして、とがつてゐるところといつたら角のところだらう、このあたりを鼻にしやう、と、はじめた。
あとで周囲を見回したら、そんなことをしてゐるこどもはひとりもゐなかつた。
みな、ちやんと直方体の中から隣の子の顔を彫り出してゐた。
やつがれにはそれが不思議でならなかつた。
どうやつたらこんなのつぺりしたところから、凹凸のある人間の顔を作り出すことができるのか。
長じて3D画像ソフトを使ふことがあつた。
これがまたなにがなにやらでねえ。
「本朝廿四孝」は狐火の段の狐を作らうとした。
ひとまづ、狐らしい形はできる。
形はできて、では動きを出さうとすると、なんだか妙ちきりんなことになつてしまふのである。
空間といふものを把握できてゐないのだ。
ものごとをx軸y軸z軸でとらへることができないのである。
おそらく、できる人から見ると、できない人間がなにをしてゐるのかと不思議でならぬのにちがひない。
できない人間は、できないのでなにが悪いのかよくわからないのだ。
よくわからないなりに考へた結果、x軸y軸z軸の関係がわからないのだらう、といふ結論に至つてゐる。
それ以上は説明できない。
説明できるやうなら、作れるやうになつてゐるだらう。
考へてみたら、道についてもさうなのだつた。
以前、知らないところに行くとき、どうやつてたどりつくか、といふエントリを書いた。
脳内では、自分の位置と目的地とは、点と点である。そのあひだを線が結んでゐる。
それだけだ。
とりあへず、目標となるものを線の周囲に配してはゐるが、それ以上のつながりはない。
たとへば、交差点があるとして、自分が行かない方の道になにがあるかとか、どう広がつてゐるのかとか、さういふことは考へない。
多分、考へられないのだらう。
よつて、京都の町中のやうなところならなんとかなるが、さうでないところ、たとへば渋谷のやうに駅を中心に放射線状に道がひろがつてゐるやうなところは迷ふのである。
…………と思ふたが、渋谷はそれほどでもないな。
渋谷で迷つた、といふ記憶はない。
目標になる建物がたくさんあるからだらう。
もとい。
そんなわけで、立体的なものを作るのが苦手である。
「そんなこといつて、セーターとかくつ下とか、身につけるものは立体でせう?」
さういふ向きもあらう。
それはそのとほりである。
そのとほりではあるのだが、やつがれのイメージではセーターもくつ下も平面的なものだ。
セーターは折り紙に近い。
平たいものをいくつか編んで、つなぎあはせる。
後ろ身頃と前身頃、両袖とを別々に編んで、あとではいでいく、といふ作業に、立体的な思考は関与しない。
するとして、せいぜいダーツを入れるとかくらゐかなあ。
折り紙は、一枚の紙を折り畳んでいくといつしか立体になつてゐたりする。
一枚からできるといふのと何枚かあはせてできるといふのとでは違つてゐるが、自分の感覚ではなんとなく近いのだつた。
くつ下を編むときはたいてい輪に編むので、立体を編んでゐる。
そのはずである。
しかし、立体を編んでゐる、といふ感覚はない。
ぐるぐる編むときに目の前にあるのは、手前にきてゐる編み地だ。
見てくれ的には平面なのである。
踵を編むとだいぶ立体的になりはするものの、踵部分といふのは輪に編まないことが多いので、やはり平面的に編んでゐる。そんな気がする。
あみものでさへさうなのである。
況やタティングレースにおいておや。
実際は、この世にまつたく平面のものはないものと思はれる。
たいていのものには縦横高さがあるからだ。
うすつぺらい紙にしたつて、厚みがある。
あみものだつてさう。
タティングレースの場合、たとへばシャトルひとつで作るやうなモチーフは、スティッチの部分と糸を渡しただけの部分とでは厚みがちがつてくる。この厚みの違ひがまたおもしろい、といふことにもなる。
なるんだけど、どーしても平面でしかものごとをとらへられないんだよなあ。
人間の目は、しかし、世の中を二次元としてしかとらへられないのだといふ。
目の前にあるものが立体だとわかるのは、影とかがあるからなのださうな。影がなかつたら、立体だか平面だかわからなくなるのだらう。
だいたい、むかーしの人が描いた絵とかは、そんな風になつてるしな。
といふことは、だ。
四次元の世界に住む人がゐるとするならば、世の中は三次元に見えてゐるのだらうか。
それつて、どんな風に見えるんだらう。
四次元の世界に住む人は、「俺、世の中を三次元でしかとらへられないんだよなー」とか悩んだりするんだらうか。
謎である。
まあ、二次元がせいぜいのやつがれにははかりしれぬことだがな。
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