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Friday, 18 April 2014

いと足らぬこと多かり

中学生のときには、すでに漢文が好きだつた。
好き、といつても、あやふやな「好き」だ。
中学生になると、英語の授業がはじまる。
猫も杓子もわけのわからぬ英文を「かつこいい」と思つて書き散らしはじめる。
やつがれは、それには組みしなかつた。
むしろ、「やうすが悪い」と思つてゐた。
「さばかりさかしだち英字書き散らし」「まだいとたへぬところ多かり」と思つてゐたわけだ。
ヤな輩だね、我ながら。

そんなわけで、卒業文集の寄せ書きにも漢文からの引用を書いたりしてゐた。
念入りにヤな輩だね、我ながら。
「さばかりさかしだち真名書き散らし」てゐたのは、誰でもない、このやつがれだつたのである。
よく見なくても、「いとたへぬところ多か」つたのに、だ。

しかし、その後漢文を読むやうになつたか、といふと、さうでもなかつた。
といふ話は、先日書いた「旧かな旧漢字の書物が苦手」といふところとつながる。
漢文の本といふのは、旧かな旧漢字で書かれたものが多い。
当時はそれが苦手だつた。

中国語を学ばうといふ気にもならなかつた。
これは我ながらふしぎではある。
外国文学を好むやうになつたら、その国のことばで読みたいと思ふのが自然な意識の流れではあるまいか。
海外で日本語を学ぶ人の多くは、日本のアニメーションが好き、といふ話も聞く昨今である。

ひとつには、「国際連合の公用語を学ぶなんて」といふ気持ちがあつた。
外国語を学ぶなら、その言語を用ゐる人数の多い言語の方がいい。
さう思ふのもまた、自然な流れだと思ふ。
とするならば、国連の公用語を選ぶといふのもまた自然な流れだらう。
やつがれは、当時おかれてゐた環境のせゐもあるのだが、それは「卑しい」と考へた。
外国語を学ぶ際に国連の公用語を選ぶことに、妙な色気がある。
さう感じられたのである。
かく書きつつも、NHKラジオの外国語講座は一通り一度は聞いたことがあるんだけどね。

いづれにせよ、中国語を学ぶ気にはならなかつた。
ちよつとくらつと心が揺れたのは、高校生のときに、漢文の授業で先生が李白の詩を中国語で読んでくれたときのことである。
中国語つてこんなにうつくしいことばだつたのか。
驚愕した。
その先生は、李白が好きといふことで有名だつたので、とくに思ひ入れのある詩だつたのかもしれない。

ちよつとくらつときて、しかし、やはりそのまま時が流れてしまつた。

去年、NHKの「漢詩紀行百選」のDVDを買つた。
播磨屋中村吉右衛門が朗読してゐる巻を購入した。
爾来、毎晩のやうに聞いてゐる。
副音声で、中国語の朗読も入つてゐる。
たまに聞いてみるのだが、結局播磨屋さんの朗読に戻つてしまふ。

播磨屋さんの朗読がすばらしい、といふのもある。
「漢詩紀行百選」が放映されてゐた時分、TVをつけたらなんだかしんみりとした詩の朗読が流れてきて、ひどくしみた。
吉右衛門がある詩を朗読してゐたのだつた。
誰のなんといふ詩かはわからない。
そのとき、走り書きしたメモもどこかに消へてしまつた。

そんなわけで、以前から吉右衛門の漢詩の朗読がいい、といふのは知つてゐた。

しかし、ものは詩である。
詩、それも定型詩である。
原語では、韻が踏まれてゐる。
漢詩には平仄のきちんとととのつた詩も多い。
すなはち、訓読ではそのよさはわからない。

訓読ではよさはわからない。
わからないが、しかし、訓読した文が好き、なんだな、やつがれは。

なんで中国語の朗読は聞けないのだらう、と思ひ、いろいろ考へてたどりついた結論はそこだつた。
漢文の書き下し文が好きなのだ。
だからかもしれないが、もともとは漢詩よりは「史記」とか「十八史略」とかの方が好きだつた。
いまでもさうかもしれない。

たとへば、杜牧の「東風周郎がために便ならずんば」の「便ならずんば」といふところが妙に好きだ。
いまどき云はないだらう、「便ならずんば」なんて。
ここの播磨屋さんの読み方がまたいいんだよね。
そのあとの「銅雀春深うして二喬をとざせしならん」もいい。

はたまた蘇軾の「軸櫨千里旌旗空を覆ひ酒をそそいで江に望み槊を横たへて詩を賦す」とか。
この畳みかける感じ。
いいなあ。

漢詩文を理解するには中国語を学ばねばといふ意見のある一方で、今の中国語には当時あつた入声とかがなくなつてゐて、どちらかといふと日本語の音読みで読んだ方が当時の読み方に近い、などといふ意見もある。
だいたい詩経と陶潜と杜甫と蘇軾とぢやあ各のあひだに何百年とひらきがあるわけだし。

学ばないいひわけはいくらでも思ひつく。
さてどうしたものか。

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