香りもの依存
疲れてくると、香りものに走る傾向がある。
最初は、おそらく、もう十五年は前のことだ。
当時、職場のそばにVIVREができた。
店内には、香りものを扱ふ店が三軒ほどあつた。
昼休みに行つては、「やる気の出る香りはないものか」と見て回つた記憶がある。
ただ、このときはなにも買ひはしなかつた。
香りものを見て回るのも、ほかにこれといつて見るべきものがなかつたからであり、また昼休みといふ限られた時間にちらつと見るだけですむからであつた。
これが本屋とかだとちらつと見るだけぢやすまないからなあ。
実際に買つたのは、八年ほど前のことである。
このころ、休日出勤の道中、あと三分も歩けば職場といふところで突然足が止まつてしまつたことがあつた。
もう歩けない。
なぜだかさう思つた。
たまたまそこにレストランの立て看板が出てゐた。
おすすめの料理やコース料理の写真が貼られてゐた。
それを見てゐるふりをして、その場に立ち尽くしてゐた。
しばらくしてからなんとか職場には向かつたものの、あまり仕事にはならなかつた。
その後も残業したり休日出勤したりはしてゐたけれど、考へてみたら、いつのまにか午後から出社するやうになつてゐたりもしたなあ。
その仕事をしてゐるときに、はじめてエッセンシャルオイルなるものを購入した。
たまたま、乗換駅のエキナカにエッセンシャルオイルを扱ふ店があつた。
例によつて午後からちんたら出勤する途中、立ち寄つた。
買つたのは、ベルガモット。
おそらく疲れてゐる人向けとかやる気のないときにとか、そんなやうなおすすめ文句があつたのだと思ふ。
ベルガモットといふことなら、アール・グレイもいいだらう。
そんな風に思つて、トワイニングのアール・グレイのティーバッグも買つたりした。
香りものを使つて、実際に気分がやはらいだり、あるいは昂揚したりしたのか。
冷静に考へると、まつたくそんなことはなかつたやうに思ふ。
単に、もうほかに頼るところがない。藁にもすがる思ひ。
そんな感じだつた。
さう思ふ。
だいたい、をかしいぞ、と思つたのは、その仕事から抜けてからだつた。
もともと、さほど香りものか好きといふわけではない。
効能についても、普段は「ふーん」くらゐで過ごしてしまふ。
信じて使へば効果もあるだらう。
その程度の認識でゐる。
疲れてくると、さういふ正常な判断力を失つてしまふんだらうな。
そんなことを書く最近は、夜ごと香を炊いたりしてゐる。
先日、山田松で沈香を買つてきた。
寝る前の時間、これに火をつけてしまふ。
決して安価なものではない。
でも、毎晩酒を飲むよりはいいだらう。
さう、沈香は酒の代はり。
さう考へれば、いくらか健康的だ。
問題は、それををかしいと思はないことなのだが。
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