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Friday, 04 October 2013

字と映画

来年四月公開予定の映画「曹操暗殺」には、「袞雪」の軸が出てくるのらしい。
さういふ話を聞いて、「それは見に行かねば、なのだらうか」と考へてゐる。

「曹操暗殺」は、曹操をチョウ・ユンファ、「三国志演義」に出てくる架空の人物・穆順を玉木宏が演じることでちよつと話題になつてゐる映画である。
玉木宏があの聲で宦官、といふのが想像できないのだが……ま、そこはそれ、なのだらう。もしかしたら吹替かもしれないし。
宦官の聲といつて、もちろん聞いたことがあるわけではないのだが、なんとなくファゴットのやうな音なのではあるまいか、と思つてゐたりする。
「春の祭典」の冒頭の、あんなやうな音。ちがふかなあ。
さういへば、新橋演舞場で「楊貴妃」がかかつたとき、高力士を海老蔵が演じてゐた。あの聲やせりふ回しはよかつたね。宦官はああ喋つたのかもしれない、といふimaginationをかきたてるやうな聲だつた。

もとい。
そんなわけで、「曹操暗殺」に関しては、これまで見に行くつもりはなかつた。
どーせハリウッド調のアクションもりだくさんの映画だらう、くらゐの認識だつたからだ。
それに、チョウ・ユンファは世間ではなかつたことになつてゐる実写版「ドラゴンボール」で武天老師だつた俳優だ。すくなくともやつがれの中では。

そこに「袞雪」の軸、である。
見てゐないので、軸だが碑だか、そこは定かではない。
しかし、「袞雪」である。
これは見に行かなければならぬだらうか。

説明するのも野暮ながら、曹操の真筆なのではないかといはれてゐる碑がある。そこに彫られてゐる字が「袞雪」だ。
web検索をかければ拓本の画像が出てくることと思ふ。
ちよつと不思議な書体である。
とくに「袞」の字。最終角の払ひがうによんとなつてゐて、全体的にユーモラスあるいはどこか艶めかしいやうな感じもする線だ。
「えー、曹操の字つてこんなかなあ」と、はじめて見たときに思つたものだが、ずつと見てゐると、「さうだつた、のかも?」といふ気になつてくるから不思議である。

映画に出てくるのつて、この書体なのかなあ。
出すからにはさうだらう。
それとも単に字だけでまつたく別の書体なのか知らん。
見てゐないだけに、妄想だけが先走る。

うまいこと予告篇かなにかに出てきて確認できればそれでいいのだがなあ。
さううまくはゆくまいな。

ところで、ここのところ字を書くのが楽しい。
大橋堂の新たなペンを増やしたこともあるし、ずつと不調だつたフォルカンが最近すこぶる調子がいい。
楽しいが、ペン先から生み出される文字は、なんといふか、不器量である。うまく書けない。ていねいに書けばいいのかもしれないが、さうすると、書きたいといふ気持ちに手が追ひついてこない。

最近思ふのだが、結局、思考のスピードといふのは、手書きのスピードとほぼ一致するのではあるまいか。

ちかごろは、手で字を書くこともあまりない。PCに向かつてキーボードを使つて、あるいは携帯電話やスマートフォンから入力する、といふ向きが大半なのかもしれない。
キーボードや携帯電話、スマートフォンからの入力スピードは、凄まじいものがある。
人はあのスピードでものを考へることができるのか。
あるいは考へずに打つてゐるのか。
考へなくても打てるのか。

さうやつて、考へるスピードとの調和を考へてゐると、字の形はおろそかになつてくる。
それでいい、とは思ふが、読み返したときに、チト悲しいやね。
とくに最近はSmythsonのパナマを使つてゐて、なんだかやたらとページをめくりたくて仕方がない症候群にかかつてゐる。
さうすると、かう、自分の字のつたなさに泣けてくるんだなあ。

こんなPCから印刷したものばかりの横行する世の中だといふのに、あるいはさういふ世の中だからか、ここのところ「美文字」とやらがはやつてゐるといふ。
「美文字」といふことば自体が醜いよね、と、やつがれなんぞは思ふのだが、なに、半分はやつかみだ。
自分にはうつくしい字など書けはしないからだ。
その昔は「みづくきのあともうるはしい」などと手蹟をほめた。
いまはなんといつてほめるのだらうねえ。「油性インキのあともうるはしい」? はたまた「炭素のあともうるはしい」だらうか。
それもなんだかうるはしくない話だねえ。

道具はかはつても、きれいな字、読みやすい字にはあこがれる。
一方で、なにを書いてゐるんだかさつぱりわからない草書にもあこがれる。どちらかといふと、草書の方が書けるやうになりたいかもしれない。暗号にもなるぢやあないか。
でも草書だから早く書けるとはかぎらないんだよね。王羲之展でそんな説明を見た。「草書だと時間がかかるから別の書体で書きます」とかいふやうなことを云ふてゐた書家がゐる、と、パネルかなんかに書いてあつた。
そんなものなのかなあ。

「曹操暗殺」から流れ流れて「美文字」の話になつてしまつた。
きつと、曹操は書にもうるさかつたことだらう。
だから、たぶん、さう間違つてはゐない。
さう思ふことにしやう。

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