くつ下編んでます
それにしても自分はなぜ、くつ下を編むのだらうか。
くだらぬこととは思へども、つい考へてしまふ。
編みはじめると、理由はわかる。
編むときの手の形および手の動きが好きなのだ。
短い四本針または五本針を手にして、ちくちくと細い糸を編む。
そのときの針の持ち方、針の動かし方は、通常の長い棒針を使ふときとはすこし異なつてゐる。
といつて、もう長いこと普通の棒針を使つたことはないのだが。
群よう子の「毛糸に恋した」を読んで以来、平編みをするときも輪針を使ふやうになつたからだ。本にもあるとほり、その方が肩こりも軽減されるし、気持ちの問題ではあるけれども若干軽い感じがする。
でもまあ、輪針を使つても、そんなに手の動きが変はるわけではない。
短い針で輪に編む場合、右の手の甲が心持ち内側に入る感じになる。
これがなんとなく好きなんだな。
また、一本の針にかかつてゐる目の数がすくないので、さくさく進む感じがあるのもいい。
くつ下はこものなので、少量の毛糸で比較的短い期間に編み上がる。
これもいい。
あみものでなにが一番大変か、といふと、編み上がつたあとの作業である。
編みはじめは、なにか編まうと思つたら一度はしなければならない。
したがつて、作り目といふのはわりとかんたんに身につくものである。
ところが、伏せ止めをはじめとする止め方やとぢはぎといふのは、編み上がらないと経験できないものだ。
編みはじめたものは必ず編み上げるといふ人はいいかもしれない。
残念ながらやつがれは編みはじめたものを編み上げられないことが多い。
とくにあみものをはじめたばかりのころは、編みはじめたはいいものの、途中ではふりだしてしまふものばかりだつた。
くつ下は、一足に一ヶ月とかかることがない。
大抵は土日に編みはじめてそれぞれ一週間づつ、あはせて二週間もあればできあがる。
さうすると、必ずなにかしら編み終はりの作業をすることになる。
つま先から編みはじめれば履き口のゴム編み止めを、履き口から編みはじめればつま先のメリヤスはぎを、どちらからでも踵をあとから編む方法をとれば踵のメリヤスはぎを体験することになる。
やつがれはメリヤスはぎが苦手だつた。
いまでも苦手だ。
だが、一時くつ下ばかり編んでゐたころには、それでもそれなりにまともなはぎができるやうになつてゐた。
ゴム編み止めもさうだ。
くつ下ばかり編んでゐたころは、一目ゴム編み止めも二目ゴミ編み止めも怖いことはなかつた。いまでも一目ゴム編み止めならすこしはまともにできる気がする。
下手の横好き、と思はないでもないが、習ふより慣れよ、ともいふ。
まあ、さういふことだ。
ところで上に書いたとほり、くつ下や手袋は四本針や五本針を使ふのが好きである。
輪に編む場合、主に以下の五つの方法があると思ふ。
- 輪針を使ふ
- 四本針または五本針を使ふ
- 輪針を二本使ふ
- 輪針でMagic Loopで編む
- 二本の棒針で編む
くつ下の場合、最初の「輪針を使ふ」はチトむづかしい。
クロバーにこもの用の短い輪針があることはある。しかし、針のサイズが限られてゐる。0号針とか1号針とか細い針で編みたい向きにはむかない。
といふわけで、くつ下や手袋を編む場合は、最初のひとつをのぞいた四つの方法のいづれかをとることになる。
輪針を二本使ふのも試してはみた。
やつがれには向かなかつた。
使つてゐない方の針がぶらぶらするのが気に入らないのだ。
ただし、この方法なら多少輪針の針と針とをつなぐケーブル部分が柔軟性に欠けてもあまり問題はない、といふ利点はある。
長い輪針でMagic Loop、は、四本針や五本針の次に好きな方法である。
縄編み模様のあるくつ下などの場合は、四本針や五本針だとうまく編み目を針に分散できないことがある。
そこのところ、このMagic Loopや上の輪針を二本使ふ方法なら問題がすくない。
Magic Loopの場合は、80cm以上の長い輪針を使ふことになる。
また、クロバーの匠のやうに針と針とをつなぐケーブル部分が硬いものは向かない。
最近では本邦でもMagic Loopのしやすいやうなケーブル部分の軟らかいものが手に入るやうになつてゐるやうだ。
以前はMagic Loop用に海外の店からAddiの輪針を注文したものだつた。
二本の棒針で輪にあむにはどうするかといふと、一目編んで一目すぺつてをくり返し、編み地をひつくり返したら前段で編んだ目をすぺりすぺつた目を編むやうにする。さうすると、輪になつてゐる、といふ寸法だ。
「アンナ・カレーニナ」にこの方法でくつ下を編むくだりが出てくる。しかも一足を同時に編むのだ。
やつがれは手袋の指を編むときにこの方法を使ふことがある。
四本針や五本針ではむづかしいが、その他の方法なら一足を同時に編むこともかんたんにできる。
どれが好きか、どれが自分に向いてゐるかは、実際に編んでみないとわからないことだ。
実際、やつがれも一時はMagic Loopばかりだつたこともあつた。
上記のとほり縄編みにはMagic Loopがいい場合がある。Magic Loopだと甲側と足の裏側にわけて編むことができる。甲と足とのあひだを目が移動するやうなことがなければ、Magic Loopがしつくりくる。
一度編んで気に入ると、つぎもMagic Loopを使つてしまふ。
そんな感じで「もう四本針で編むことはないかもしれないなあ」などと思つてゐたこともある。
ある日、何の気なしに四本針でくつ下を編んでみたら、これがなぜだか編みやすかつた。
Magic Loopだと、ケーブル部分をひつぱらないといけないのが、どうも、ね。
慣れるとこの動きが楽しかつたりもする。それで一時ははまつたわけだ。
しかし、ここらへんで一度Magic Loopで一足同時編みをやつてみるべきかもしれないな。
もう手が忘れてしまつてゐる気がするし。
ところで、くつ下を好んで編む理由のひとつに、夏でも毛糸で編めるから、といふのがあつた。
この件については以前も書いてゐる。
毛糸、すなはち羊毛などの獣毛を紡いだ糸で、といふことだ。
夏の糸はどうしても綿や麻、絹、あるいは化繊ばかりになる。夏用羊毛糸などもあるけれども数は少ない。
しかし、くつ下や手袋といつたこものなら、真夏の暑い時期にも毛糸を使ふことが可能だ。
編み地が躰につかないから、気温が高くても気にならないのである。
さういひながら、近年真夏にくつ下など編まなくなつてしまつた。
毛糸だけは山とあるので、夏はせいぜいくつ下でも編むことにしやうか。
その前に冬が来るのだが。
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