都内一のパワースポット
渋谷、新宿、池袋にはできるだけ立ち寄らないやうにしてゐる。
乗り換へでさへもでき得るかぎり避ける。
渋谷については、「さうしてきた」といふべきだらうか。
去年の六月、渋谷ヒカリエに川本喜八郎人形ギャラリーができて以来、いや、個人的には同年の八月におなじくヒカリエにある渋谷区防災センターで人形劇三国志の上映会に行つて以来、渋谷には行くやうになつた。
本人には、「渋谷に行く」といふ意識はないのだが。
それまで渋谷といふと、シアターコクーンとか青山劇場とかに用のあるときにだけ行くところだつた。
年に一度あるかないか。
新宿や池袋もそんな感じで、芝居見物の用がなければ行くことのない場所だ。
はじめて川本喜八郎人形ギャラリーに行つたときは、それだけを目当てに行つた。
八月の上映会は、シアターPARCOで三谷幸喜の「其礼成心中」を見たついでだつた。
ついでの方がつよく印象に残つた、といふ話は何度も書いたとほりである。
なにしろ赤壁の戦ひの回だつたからねえ。
さすがの三谷幸喜も赤壁の戦ひの前には影の薄くなるものらしい。
川本喜八郎人形ギャラリーはしかし、そんなに広いところではない。
現在飾られてゐる人形も全部で四十体前後、それも赤子や幼児をふくめて、だ。
見るのにそれほど時間もかからないし、一度さーつと流せばいいやうな感じではある。
しかし、なんとなくいいんだよなあ。
たとへば仕事帰り。
頭は痛いし疲れてゐるし、もう今日は立ち寄るのはやめて家に帰らう。
さう思ひつつもふらふらとヒカリエの8Fにたどりつき、そこにゐる面々を眺めるともなしに眺めてゐると、なんとはなしに気分がほぐれていく。
最初は気のせゐかな、と思つてゐた。
なにしろ渋谷はものすごい人である。
「今日の渋谷はたいへんな人ですこと」と、毎日毎時のやうに云つても足りないくらゐすごい。
颱風のときなど渋谷駅前のやうすがTVに映し出されることがあるが、「こんな天気なのに、こんなに人が歩いてゐるなんて」と驚くことがあるほどである。
人混みにさらされれば頭痛はつのるし気疲れもする。
しかるに、かう、気持ちのふはーつとかるくなるやうな、この感覚はなんなのだらうか。
好きだから。
さう云つてしまへばかんたんなことなのだが。
なにかあるね。
川本喜八郎人形ギャラリーにはなにかある。
たとへば前の展示のときには、平家物語には祟徳院、三国志には関羽がゐた。
日中の誇る怨霊が、ひとところにゐたのである。
ケースは平家物語と三国志とでわかれてはゐたものの、そんなの、関係ないよね、あのふたりには。
かてて加へてその筋には「オカルト・パワー」で有名な孔明もゐた。
それつて、なんだかものすごいパワースポットなんぢやああるまいか。
当時はさう思つてゐた。
おそらくは、祟徳院の力と関羽の力とが互ひを打ち消しあつておだやかな気を作り出してゐたか、あるいは孔明がその「オカルト・パワー」とやらですべてを抑へこんでゐたのだらう。
いまは、関羽しかゐないけれど、なに、伝説の英雄・鎮西八郎が二体もゐる。
あそこにはものすごい気が集まつてゐるのに相違ない。
といふわけで、頭痛にはヒカリエ、疲れたら川本喜八郎人形ギャラリー、といふことでひとつ。
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