八月の川本喜八郎人形ギャラリー
八月七日から二十一日までのあひだ、渋谷ヒカリエにある川本喜八郎人形ギャラリーで、ちよつとしたイヴェントがあつた。
書いたつもりでゐてすつかり忘れてゐた。
一ヶ月もたつし、もういいかなとも思つたが、記憶のよすがに残しておく。
午後一時から五時まで、川本プロダクションの方々や人形遣ひの方がギャラリーにいらして、人形の操作を実演してくれたり、その人形を実際に持たせてくれたり、いろいろ説明してくれたりしてゐた。
このとき皆さんお召しのTシャツが、一昨日書いた川本喜八郎の絵をもとにしたTシャツである。
七日から十日のあひだは、孔明をつれてきてゐたのらしい。
何度も書いてゐるが、孔明は前回の展示のときにゐたので、現在の展示にはゐない。最後に見たところ、孔明は一番傷みのすくないうちの一に見えたけれど、それでも長いこと照明にさらされてゐるとよくないからね。
やつがれが行つたのは、十一日。
たぶんまだほんとに髪の毛の黒いうちの実盛を触らせてもらつた。
あれはね、まだ染めてないと思ふんだよね。
あと、鎧兜をつけた人形。これが重たくてねー。2.5kgはあるといふ話だつた。これを頭上高くかかげて操作するのだ。鎧と兜とは京都の職人の作つたものださうで、実に精巧にうつくしくできてゐる。川本喜八郎はご満悦だつたのださうだが、人形遣ひにとつては、ねえ、といふ話もあつた。
このときは、人形遣ひの船塚洋子さんがいらしてゐて、操演もしてくだすつたし、いろいろお話もしてくだすつた。
船塚さんは、「平家物語」では義経を遣つてゐたのだと、云ふてゐた。
その後、スタッフの方々から、「人形劇三国志」では曹操を、「ひょっこりひょうたん島」では博士を遣つてゐたと教へられた。「新八犬伝」では信乃さんだつたとも聞いた。
なんだか、こー、やつがれの人形劇鑑賞歴を実際に支へてらした方が目の前にゐる、といふ、そして実際に人形を遣つてゐる、といふ、そして、お話までしてくださる、といふ、いろんな思ひがわきあがつては混迷する、そんな感じであつた。
しかも、である。
現在の展示で一等お気に入りの、敗残の為朝を見てゐたら、背後から「これ(為朝)、いいでせう」と、聲をかけてくだすつたのだよねえ。
現在の展示は、船塚さんの手によるものだといふ。
頼長や忠通の衣装はちよつと地味なので、ちよつと華やかな裏地(といつても頼長はともかく、忠通は深緑色だつたりはするのだが)を見せてゐる、とか、忠正は下に鎧を着てゐるのがわかるようになつてゐる、とかいふことも教へてくだすつた。
これまで何度も見てゐるのに、なにも見てゐなかつたんだなあ、やつがれは、と、しばし落ち込みもしたが、なに、為朝が、それも、右腕の筋を切られてそれでも不敵に天をあふぐ為朝が、一番ステキよねー、みたやうな話ができたことが、ひどくうれしかつた。
我知らず、女子高生のやうな聲になつちやつたもんね。普段はヲツサン聲なのに。
その後、川本プロダクションの方もしばしお話をしてくだすつた。
気さくな感じは、歌舞伎の大道具の長谷川勘兵衛を思ひ出させるものがあつた。長谷川勘兵衛さんは、「楽屋口で「勘兵衛を呼べ」と云つてくれれば、いつでも案内しますよ」と云ふてくれたつけか。畏れおほくてやつたことはないけれど。
ところでおわかりの向きにはご存じかと思ふが、もともとやつがれはあまり疑問といふものを抱かない。
あるがままにしなさい。Let it be。
といふか、疑問を抱くほどものごとを深く知らうとはしない。
「そーゆーものなんだー」ですませてしまふ、めんどくさがりを体現した人間である。
ゆゑに、人との会話もはづまない。
初対面の人となんて、なにを話していいかわかんないしね。
ただ、先日、三森ゆりかのセミナーを受けることがあつて、すこし質問のコツのやうなものがわかつた気がした。
それでも生来の性格といふのは如何ともし難いものはあるのだが、それでも知つただけ、すこしはましだつたのだらう。
このときも、なんとか、相づちを打ててゐたんぢやあるまいか。
いや、わかつてゐる。スタッフの方のお話がうまかつただけなんだ、ほんとは。
でもまあ、自分にしては、よかつたんぢやないかな。
このイヴェントの期間中、八月十四日から十八日のあひだは、おなじヒカリエの8Fにある渋谷区防災センター会議室で、「平家物語」の上映会があつた。
去年は同時期に「人形劇三国志」からより抜きの回を上映してゐた。
今年は「平家物語」の第一部全12話を上映した。
やつがれは17日に行つて、保元の乱前後を見てきた。
いやー、やはり実際に動いてゐる人形はいいねえ。
しかも、そこで見てもつとよく見たい、と思つた人形は、ほんの数メートル離れたところにゐるのである。
現在、まだ「人形劇三国志」のDVDを細々と買ひもとめてゐるところなのだが、「平家物語」も買ふやうだらうかー。ぬー。
川本喜八郎人形ギャラリーは、渋谷区の運営するものといふこともあつて、阿堵物の関はるやうなことにはなにかと厳しからうし、不自由もあるかとは思ふが、なんとか、できるだけよい形でつづけてくだすつたら、と、願つてやまない。
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