以下は、今年六月に飯田市川本喜八郎人形美術館に行つたときの感想記である。
前回前々回と書くのを忘れてしまつた。
近頃面目次第もござりませぬ。
さて。
「玄徳の周辺」の右隣のケースは、「江東の群像」のケースである。
左端奥は呉国太。濃いベージュといふかカーキ色といふかの地に、瓢箪がぽちぽちと散らされた衣装が可愛い。人形劇のときに着てゐたものとおなじはずなのだが、人形劇のときは瓢箪には気がつかなかつたなあ。
そして、表情がとても穏やかで、見惚れてしまふ。人形劇ではもつと厳しい感じだと思つてゐたがなあ。こちらが下から見上げてゐるせゐでやさしげな表情に見えるのか知らん。あるいは、衣装の瓢箪も一躍かつてゐるのか知らん。
前回あんなに可愛かつた貞姫が、今回はたいして可愛くないのと対照的な気がする。
さう、前回は、「え、貞姫つてこんなに可愛かつたつけ」と、何度も何度も見てしまつた貞姫が、今回の展示ではたいして可愛くない。なぜだ。展示されてゐる位置も格好も前回とそんなにかわつてゐないのに。むう。
長刀のかまへ方なんかは袖を巻いた感じで今回のもすてきなんだけどな。
思はず淑玲と見比べたりもした。
人形劇では淑玲と貞姫とは似てゐる、といふことになつてゐるけれど、そんなに似てないよね。人形劇を見てゐるときからさう思つてゐたけれど、かうして比べてみると、やはり似てゐない、と思ふ。どこが似てるのかなあ。
孫権は、どうしていつもおなじ格好なのだらうか。どつしりと椅子に座した態。たまにはちがふ格好も見てみたいものだ。でも考へてみたら、人形劇に出てゐたときも、そんなに動く人形ではなかつたかも。
孫権は衣装の前垂れがとても立派だ。クレヨンにありさうな鮮やかな緑の地に龍の模様が刺繍されてゐる。学芸員の方が、政治家系の前垂れは帯のおたいこ部分を使つてゐる、と教へてくだすつた。いつたい誰がこんなおたいこの帯を締めてゐたのだらう。気になるなあ。
さういふ点でいくと、今回の前垂れ大賞(つてなんだよ)は、盧植だなあ。渋い中にも華やかな季節感があつて、よい。
喬国老は、呉国太とはちがつて、人形劇のときはもうちよつと穏やかな感じに見えたのに今回の展示では厳しいジイサンといつた趣で立つてゐる。顔の作りは現在ヒカリエにゐる蹇碩に似てゐる気がするな。ほら、なんだか陰険さうでせう。
ここまでが一応孫家の人々といつたくくりなのだが、なぜかここに黄蓋が入る。ふしぎなことである。ここにゐるなかでは黄蓋だけ目がガラスといふかアクリルといふかでできてゐる。なぜなんだらう。なんか、この仕掛を生かす演出が人形劇にあつただらうか。チト思ひ出せぬ。
赤壁のくだりを見直すよい口実ができたかもしれない。
諸葛瑾は、どこかもの云ひだけなやうすで立つてゐる。ちよつと見上げたやうすで、なにか云ひたさうにしてゐる。かういふ、「なにか云ひたげ」な感じに弱いんだよなあ。前回の展示でいふと夏侯惇か。
諸葛瑾ならばさぞかし云ひたいこともあらう。うんうん、聞くよ。
闞沢は、人形劇を見てゐたときから思つてゐたが、かういふ顔のをばさん、ゐるよね、といつた感じだ。展示されてゐるのを見てもさう思ふ。これで髭を取つたら、そこらへんを歩いてゐさうな顔立ちだもの。をばさんだけど。
陸遜は、かうして見るとやはり悪人面だなあ。まちつと若々しい感じでもいいのになあ。演義とかだともうちよつと好青年な気がするんだけどなあ。人形劇でも玄徳との戦ひのあたりは、ちよつといい人つぽかつたけど、人相が邪魔してるんだよなあ。チト可愛さう。
呉の家臣団の中心は周瑜。当然だな。例によつてフリオ・イグレシアスとおなじ方向から見たときがいい男に見える。気がする。
中心にゐなくても中心つぽく見えるつてところも如何にも周瑜だ。
魯粛は、顔の向きがちよつと内側すぎるのがつまらない。まはりこむと背中しか見えなくなつてしまふでな。
その隣のケースが「特異なキャラクター」。
于吉仙人は、服がところどころやぶれてゐたりするところがいい。杖は木目のはつきり見えるタイプ。ちよつとびつくりしたやうな表情で立つてゐる。
左慈の杖は、木目はほぼなしで、于吉仙人のものよりこぶこぶしてゐる。前回はダーク・フォースのジェダイ・マスターといつた趣で立つてゐて、実にやうすがよかつたのだが、今回も右側から見るとなんだかやうすがいい。左慈なのに。
学芸員さんが、左慈の目の光るやうすを見せてくだすつた。ありがたい。なかに電球がしこんであつて、赤く光るんだよね。
曹豹は、張飛になぐられたあとの青あざも痛々しい顔のまま展示されてゐる。殴られてしりもちをついてしまつた、といふ態。あはれだがなぜかユーモラスだ。
しかし、曹豹、「特異なキャラクター」か?
張松は、前回は手前にゐて今回は奥の上段。これといつて変はつたやうすはない。衣装も地味さうでゐてよくよく見るといいもののやうに見受けられる。
督郵は、その口の造形、とくに下唇に目を奪はれる。実際に動いてゐるところを見てみたいなあ。人形劇ではよく動いてゐたけれど。たつた一回、それもたいして出番もない人形までよくできてゐるよなあ。
こちらも玄徳・関羽・張飛あたりに脅されて座り込んだといつた感じだ。
袖に小槌や桐が家紋のやうに散らされてゐる。学芸員の方は、川本喜八郎は豊臣家由縁の着物を集めてゐて、それを使つたのでは、と説明してゐた。前半はともかく、後半はどうかな。督郵にそんな柄を使ふか知らん。まあ、桐の模様も五三の桐といふわけではないので、豊臣家由縁のものではない、とも云へる。
華陀は、このケースで唯一見てゐてほつとする人だ。ふつくらほつこり系なんだよね。癒し系の医師。
紫虚上人は、今回もやはり座つてゐる。両手の指を上にして掌の方をみせてゐて、驚いてゐるのかといつた態。皮膚は鬼ちりめん、と云ふてゐた。もしかして、紫虚上人は立つことができないのかな。さうかなさうかも。
蒋幹は、この中でただひとり衣装が派手。牡丹色でサテンのやうな光沢のある生地だものな。目立つわー。目の玉もまん丸だし。
しかし、「特異なキャラクター」と云はれると、さうなのだらうか、と思つてしまふ。周瑜の友人だから「特異」なのだらうか。「曹操の王国」には入れてもらへなかつたのね、といふ点があはれをさそふ。
ここまでが人形劇の展示。
人形アニメーションの展示はまたいづれ。
「黄巾の乱」についてはこちら。
「宮廷の抗争」と「連環の計」についてはこちら。
「玄徳の周辺」についてはこちら。
「曹操の王国」についてはこちら
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