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Friday, 23 August 2013

長使英雄涙満襟

杜甫を、いや、漢詩を読む人であれば、とくに「三国志演義が好き」といふことがなくても、「蜀相」といふ詩を知つてゐることと思ふ。
とりあへず、やつがれも「三国志演義が好き」といふわけではないが知つてゐる。

丞相祠堂何処尋
錦官城外柏森森
ではじまるこの詩には、つい先日も書いたが、やつがれの名前を成す漢字のうち一文字をのぞいてすべて使はれてゐる。
そんなわけで、はじめて知つたころからなんとなく気になる詩ではあつた。

漢詩や杜甫に関する本を読んでゐるとたいてい出てくるので、なんとなく読み方も覚える。
「柏」が日本でいふところの「カシハ」ではなく、「コノテガシハ」のことだ、とか、さういふ注も自然と覚える。

七言律詩のこの詩を、しかし、空で書けるとは、長いこと思つてゐなかつた。
書けることに気がついたのはつい最近のことである。

「漢文法基礎」を読み終はつて、はじめて気がついた。
このときに、覚えるともなく覚えてゐたことにも気がついた。

「漢文法基礎」は大部なので、すべて理解したとはいへないが、それでもぼんやりとはわかつたこともあるのだらう。
ある日、なんの気なしに、目の前の反故紙に、手にしたペンで書いてみたら書けた。
杜甫にしては難解な漢字がない、といふのが書けた理由かと思ふ。

これまただいぶ以前に、「春望」は学校で習つたこともないのに、なぜか暗唱できる、といふ話を書いた。
文化つて、さういふことなんぢやないかな、とそのときに記した。
つまり、とくに学校で教はらなくても、自然と目に入り耳にする、さうして詩やら文章やらを覚えるともなしに(ぼんやりと、ではあるが)覚える。
それが文化といふものなのではないか。そんな気がする。

「蜀相」は「春望」とはちがふ。
すくなくともやつがれの中ではちがふ。
「蜀相」はなぜか、なにかにつけて目にすることの多い詩だつた。
そこが「春望」とちがふ。

書けるとうれしいもので、つい書いてしまう。
つい最近、ちよつと緊張することがあつて、それをやはらげるのに書き散らしてゐたのもそれだつた。

ところで、冒頭にも書いたとほり、とくに「三国志演義が好き」といふわけではない。
さういふわけで、別段実際に「丞相祠堂何処尋」などとやつてみたいわけではない。
だいたい今は「隔葉黄鸝空好音」といふこともないだらう。
観光客がわんさとゐさうだからな。

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