あみものとヲタク心
残念ながら、originalityといふものがない。
あみものとかタティングレースとか、どなたかの作つてくれた編み図なり編み方なりにしたがつて編むのが精一杯である。
自分でデザインを考へて、かうすれば仕上がるのではないかとか試行錯誤をしながら作品を作る、なんてなことはできた試しがない。
タティングレースが一番いい例で、「こんなものを作りたい」「こんなモチーフをつないでみたい」といふ曖昧模糊としたイメージはあるものの、それを形にすることができない。
手持の本やWebを探して、イメージどほりのものが見つからぬ、と嘆くばかりである。
嘆くくらゐなら、自分のイメージを形にすればいいのだが。
それができないから嘆いてゐるんだよなあ。
できることといつたら、「ゴム編みのときはやつぱりゴム編みの作り目で編みはじめるよなー」であるとか、「くつ下の踵は引き返し編みの方が好きなんだよねー」であるとか、「違ふ配色で編みたいんだよねー」であるとか、せいぜいその程度である。
そんな流れで編んでみたのが、下のリストウォーマだ。
デザインは林ことみの「北欧ワンダーニット」に掲載されてゐるエストニアンスパイラルである。
色合ひは、中村座の定式幕をもとにしてゐる。
一昨年の秋、平成中村座に行く、といふので急遽作つたものだ。
平成中村座は、巨大なテントだ。
すなはち、11月ともなると、天候次第では冷えることもありうる。
さう思つて用意したものだつた。
観劇の日、「お祭り」を踊つて引つ込んで行く役者が、揚幕脇に座るやつがれの手元に一瞬視線を向けた、そんな気がしたものだつた。
さういへば、去年の南座の顔見世にもこのリストウォーマをして行つたのだが、襲名口上に出てきた役者がやはりちらつとこちらの手元に目を向けた気がしたものだつけか。
もちろん、これは、よくある「役者さんと目があつたのよー!」といふ思ひ込みとおなじものである。
実際にさういふことはない。
む、なんだかさみしい気分にひたつてしまつた。
もとい、当時は「これつて、ヲタ編みだよねー」などと思ひながら編んでゐた。
あみものつて、結構「フリーダム」だ。
「こんなものを編みたいなー」と思ふと、案外編めてしまふ。
SFドラマによくある、未来の人々が身につけてゐる身体にぴつたりとした衣装とか、色と模様だけ真似すれば、普通にセーターを編む要領で編めてしまふのである。
たとへば、「スタートレック」といふか「宇宙大作戦」といふかに出てくる制服だ。
黄色とか青は、あのとほりの色を探してくるのがむづかしいかもしれないが、赤だつたらかなり近い色の毛糸を見つけてくることは可能だらう。
あとは、ふつーのセーターの本でも見つけてきて、ちよつと細めになるやうに編めば、かなり近いものを編むことができる。
「別に身体にぴつたりしなくてもいいやー」といふ向きには、それこそふつーに編めばいい。
「男の編み物、橋本治の手トリ足トリ」で、橋本治は歌舞伎の登場人物が着る衣装の模様を再現した羽織ものを編んでゐた。さういへば橋本治はデニムのパンツだかに桜の模様かなにかを刺繍して、伸縮性がなくなつてしまつて難儀した、なんてなこともどこかで書いてゐたつけか。
橋本治の域に達することはむづかしいかもしれないが、中村座の定式幕模様のリストウォーマくらゐなら、ちよつとあみものをしたことのある人なら、ちよちよいのちよい、である。
最近では「SHERLOCK」のジョンが着てゐるセーターを復元してゐる人もゐるんぢやないかな。縄編みだつたり編み込みだつたり、ジョンの着てゐるセーターはちよつと編み心を誘ふんだよね。
あるいは「あまちゃん」でアキちやんの身につけてゐるヴェストや帽子なんかにも、編み心そそられる。
さういへばかつては男性アイドルをfeatureしたセーターブックなんてあつたよねえ。
最後に見たのはオダギリジョーだつたか、柳家花緑だつたか。
これはヲタ編みとはちよつと違ふけれど、でもあみもの好きといふよりはそのアイドルのファンに向けたものだつたらうことを考へると、そんなに遠いものでもなからう。
などと思ひ出にふけりつつ、ヂヤンテイ織やドミノ編みで弁慶格子を再現できないだらうか、とか、矢羽根の茶羽織なんぞを編めないものだらうか、とか、無謀なことを考へたりしてゐる。
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