敬して遠ざける黒インク
黒いインキの入つてゐる萬年筆は、使はなくなる。
余人は知らず、やつがれはさうである。
以前もちよこつと書いたが、最近やつと好みのタイプのペンといふのがはつきりしてきた。好みとあはないペンは、きれいにしてしまふか処分するかしやうと思つてゐる。
それでも何本も「現役」といふか「一軍」なペンがある。
その中で黒いインキが入つてゐるペンが何本あるか。
「一軍」の中には一本もない。
「二軍」に二本。
そんな感じである。
萬年筆のインキといふと、やつがれのイメージでは「ブルーブラック」だ。
最近でこそゲルインクのボールペンに「ブルーブラック」があつたりするけれど、昔は「ブルーブラック」といへば萬年筆だつた。
そんなわけで、萬年筆を使ひはじめたころは、ブルーブラックのインキばかり入れてゐた。
パイロットのブルーブラック、モンブランのブルーブラック、プラチナのブルーブラック、ペリカンのブルーブラック……
なかでも、ウォーターマンのブルーブラックが好きだつた。
クルトゥールライトを買つたときに、ブルーブラックのカートリッジがついてきた。使つてみたら、ほかの会社のブルーブラックにくらべて明るい色合ひで、気に入つたのだつた。
最近よく使ふのは、青である。「ブルー」とも云ふ。
一番使つてゐるのはモンブランのロイヤル・ブルーだらうか。
先日購入したキャップレスデシモの極細にもパイロットのブルーを入れてゐる。
ドルチェ・ヴィータにはデルタのブルー。これがなんとも明るいブルーでいい。
セーラーのスカイハイとかパイロット色彩雫の露草なんかもここに入れていいだらう。
ロイヤル・ブルーでもいいんだ、と思つたのは、瀬川晶司五段が日本将棋連盟にプロ編入の嘆願書を提出したときだつた。
このとき、TVのニュースに映し出された嘆願書は、萬年筆のロイヤル・ブルーのインキで書かれてゐた。
やつがれの目にはさう見えた。
あとはターコイズブルーもよく使ふ。
本や芝居の感想は緑色のインキで書く。
グレーのインキも結構好きだ。
なかでもナガサワ文具センターの御影グレーと、Pen and messages.の冬枯れを愛用してゐる。
しかるに、黒インキ。
スーベレーン300に入れてはゐるし、職場にはプラチナのデスクペンに黒インキのカートリッジをさしてはゐるのだが。
気がつくと使はなくなつてゐる。
なぜなのか。
考へるまでもなく、理由はわかつてゐる。
黒インキで書いた文は、断定的な感じがする。
そのせゐだ。
このblogを書いてゐるあひだも、「なんだか」とか「なんとなく」とか「そんな気がする」だとか「さう思ふ」だとか、断定を避ける表現があちらこちらに登場する。
これでもかなり削つてゐるつもりなのだが、と書くこの「つもり」がまた断定することを拒否してゐる。
性格だからなあ。
しかたがない。
黒は好きな色なんだけどね。
パイロットからエリート万年筆が復刻販売されると聞いて、一本手に入れてみるつもりだ。
そのペンには黒いインキを入れてみやうかなあ。
黒を使はない理由にはもうひとつあつて、職場で書類になにか書き込むときに、黒だと書類のインキの色にまぎれてしまふ、といふのがある。
でも、書類に書き込むときに使ふペンは、ほかにもたくさんあるからなあ。
もうすこし、悩んでみるか。
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