困難に直面したとき
この週末、旅先で困つたことになつた。
_Tatting with Visual Patterns_からMasqueradeを作つてつないでゐるのだが、突然、使つてゐる糸の途中に、結び目があらはれたのである。
むむー。
レース糸で結び目つて、致命的ぢやあるまいか。
致命的といふか、終はつてゐる。
せめてもつと手前で気がつけば、と思つたが、旅の空の下の開放感ゆゑ、とでも云ひたいところだが、単にぼーつとしてゐたんだらうな。
結び目に気がつかなかつた。
糸はLisbeth #40。色合ひはPink Cocoaといふ。
糸を切るのはかんたんだ。
そんなやうなことを云つてゐる先生がゐたな、小学校に。
正確には隣の家に住んでゐた子に聞いた話だ。
その子の担任の先生が、云つたのださうだ。
結び目をほどく方法を考へなさい。糸を切るのはかんたんだ。なぜそんな話になつたのか、まつたく覚えてゐないが、たまに思ひ出す。
このことばの重要なところは、「考へなさい」といふところだ。
「とにかくほどけ」と云つてゐるわけではない。
糸がぐしやぐしやになると、やつがれはとりあへずほどかうと手をつけてしまふ。
そして、「こんなことに時間をかけるほど、人生は長くない」と悟るに至り、そこで切つてしまふことが多い。
ほんたうは、ほどきはじめる前に、まづ糸の状態を観察して、どうすればいいか考へるべきなのだ。
わかつちやゐるが、できた試しがない。
話を聞くかぎり、あみものする人はほどくつて云ふよね。ギリギリまで糸をムダにするやうなことはしない。
さういふ印象がある。
ゆゑにあみものを「環境にやさしい」とか云ふのだらう。
あみものは決して「環境にやさし」くなんかない。
あみものをする人に、さういふ心根の人が多い。
さういふことなんだと思ふ。
ところでやつがれは、あまり「環境にやさしい」ことなど考へたりしない。
つまるところ、環境問題といふのはトレードオフだ。
あちらをたてればこちらがたたない。
さういふ風にできてゐる。
たとへばPETボトルのリサイクル問題。
使用済みのPETボトルを回収してリサイクルすれば、新たに石油を使つてPETボトルを作る必要はない。
だが、再加工する際に、多大な燃料、すなはち石油を必要とする。
再加工がいいのか。新たに作つた方がいいのか。
悩むところである。
PETボトルをリサイクルできる資源として出すのは、さういふきまりになつてゐるからに過ぎない。
あみものは、でもまあ、かなりのところ個人の中で完結するから、人間ががんばれば、その分「環境にはやさしい」んだらう。
さう思ふゆゑに、時間のムダと知りつつも、せつせと糸をほどくのだらう。
今回は、しかし、糸をほどくことはしなかつた。
なんとかシャトルつなぎ部分に結び目を持つてきて、といふか、うまいこと結び目がシャトルつなぎのあたりにやつてきて、そのままごまかしてしまつた。
芯糸だつたので、シャトルつなぎにこぎつけるまで、結び目にスティッチがかからないやうに気を遣つた。
でもまあ、うまく結び目を隠せたんぢやないかな。
こんなことがあつても、とりあへずタティングをつづけてゐるといふことは、すこし気持ちが持ちなほしてきてゐるのかもしれないな。
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