「歌舞伎にみる日本史」を読む
芝居は見に行くが、予習して行くことはほとんどない。ましてや復習。
考へてみたら、「歌舞伎を見たい」と思つてから実際に見に行くまでにながいことかかつたので、いはゆる「頭でつかち」な状態になつてはゐたのだ。「梅幸の藤娘は見なくちや」とかね。「しがない戀の情けが仇」以下のせりふを言へる、とかね。
芝居なんてなあ娯楽だから、予習だの復習だの無用の長物。
さう思ふてゐたけれど、最近たまたま「知つてゐるから楽しめる」といふ事態が二度ほどあつた。
それはさうだよなあ、といふので、芝居に関する本を読んでみることにした。
歌舞伎にみる日本史は、題名に惹かれて手にとつた。
本書は、「妹背山婦女庭訓」にはじまつて、「将軍江戸を去る」まで、芝居とそのもとになつた史実とをならべて紹介した本である。
ならべて、と書いたのは、見開きが一対になつてゐて、右側のページに芝居の紹介、左側のページに史実の説明が書かれてゐるからだ。
つまり、どちらも中途半端な感じになつてゐる。
題名から見るに、芝居を知つてゐる層に向けて書いてゐるのだらうから、思ひきつて芝居の紹介は短くして、史実の説明を増やした方がよかつたのに、と思つてしまふ。
でも、さうはできない事情があつたのだらう。
愚考するに、著者の書きたかつたのは、史実どうかうよりも、芝居のことの方だつたのではあるまいか。
その昔、勘三郎が、長男が生まれたといふので、役者の子だから曽我兄弟の本を買つてやらうと、勇んで本屋に行き、そんな本は一冊もないことにがつかりした、といふ話をしてゐたことがある。
やつがれはといふと、曽我兄弟については、歌舞伎の本を見て知つてはゐたが、それ以外ではじめて目にしたのは、眠狂四郎シリーズだつた。
曽我兄弟の史実の話だけでも、かなり重宝すると思ふがなあ。
大河ドラマの視聴率を見るに、最近はとくに信長・秀吉・家康の出てこない時代・話は人気がないのらしい。
その、人気のないあたりの話も、芝居を見るうへで知つてると楽しいと思ふがなあ。
まあ、この本に出てくるていどの説明で十分といふことなのかもしれないなぁ。
それに、芝居好きだから歴史も好きとはかぎらない。逆はもつと少なからう。
まづは興味を引いておかう。
これはさういふ本かと思ふ。
1998年出版といふわりには、中に使はれてゐる写真が古い。
十一世團十郎・先代の幸四郎・先々代の松緑のものが目立つやうに思ふ。寿海、先代の猿翁もある。ちよつといい感じだ。
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