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Friday, 14 December 2012

イスカの嘴のくひちがひ

毎年、この日にはなんとなく赤穂浪士の討ち入りのことを書いてしまつたりする。
しかし、考へてみたら、実際の討ち入りは15日未明。
しかも、陰暦なのである。

Wikipediaによると、1月30日とかなのらしい。

だいたいかういふ歴史的事件の日付つて、アヤシいよね。
日本とか中国とかなら陰暦だし。
ヨーロッパだとユリウス暦だつたりなんだつたり。
イスラム暦はよくわからないし、革命直後のフランスとかもなんとかしてほしい。でも「テルミドール9日」はもうそのまま覚えるしかあるまい。

今年亡くなつた丸谷才一は、三大狂言の中では「仮名手本忠臣蔵」が一番好きだと云ふてゐた。
こどもが犠牲にならないから、なのださうである。
いはれてみれば、「菅原伝授手習鑑」では松王丸の子、「義経千本桜」では権太の子がそれぞれ高貴の方の身替はりになる。
忠臣蔵にはそれがない。

ところで、やつがれはといふと、三代狂言の中で一番好きなのは「菅原伝授手習鑑」。忠臣蔵は、その次、くらゐかなあ。
忠臣蔵で一番好きなのは九段目。ほかはそれほど好きではない。人気演目と云はれる五段目・六段目もそれほど好きではない。といふか、これまでは「苦手だなあ」と思つて見てゐた。

なぜ苦手なのか。
「色にふけつたばつかりに」とか云ふて、「そのとーりだよ」としか思へなかつたからだ。
お軽ちやんみたやうな子も好かんし。
「勘平さんは三十になるやならずで」あんな体たらくだし。
それよりなにより、「このあとおかやはどうなつちやふの。たつたひとりで山の中、暮らしていかなきやいけないんだぜ」といふ方が気にかかる。
はじめて見た六段目のおかやは、先代の美吉屋だつた。どうも、丸本の世話物のおばあさんといふと、先代の上村吉弥、といふ印象がある。ちいさくてかはいいおばあさんが、夫を失ひ、娘は廓へ、婿もみづから腹かつさばいて死んでしまひ、どうやつてひとりで暮らしていくんだ、と、そればかりが気がかりなのだ。

その五段目・六段目を先日南座で見た。
なるべく苦手といふ意識を捨てて、虚心で見るやうにしてみた。

んー、やはり、内容は好かんが、しかし、南座の五段目・六段目はいい芝居だつた。
竹三郎のおかやがよかつたねえ。
売られていく娘を気遣ひつつ、なぜうちの人は帰らぬのだらうと気にかけてゐる感じが、實によく出てゐて、まづそれだけでこの段はよし、といつたところ。
また、左團次が大きくてねえ。最近見るたびに思ふのだけれど、高島屋さんはいつからこんな大きい役者になつたのだらう。見るたびに思ふのだから、もうずいぶん前からなのだらうけれど、多分、昔見たおどけた役が忘れられないんだらう。これはこちらの落ち度である。

松之助の女衒に、秀太郎の一文字屋お才といふのがまた秀逸。
お才といふと、長いこと宗十郎とか田之助で見てきたけれど、こんな上方風なお才ははじめてかもしれない。すごむ女衒をいなす感じとか、したたかに生きてきたんだらうなあといふ感じが手に取るやうに見える。それでゐてなんともいへない色気があつてねえ。いいぞいいぞ。

それに、仁左衛門の勘平が、ねえ。
やつぱり勘平は好かん。
好かんが、「さうか、勘平つて、云ひたいことはいろいろあるのに飲み込んで、しかも話さうとして相手が聞いてくれず、あきらめちやつたのかー」と今回思ふところがあつて、なあ。

なるたけ虚心になるたけ虚心に、と、心のなかでつぶやきながら見た甲斐もあつたといふものである。

多分、今後は、勘平切腹も、以前ほどの苦手意識を抱かずに見ることができるだらう。
勘平は、家によつてもさまざまだし、人によつてもやり方がことなる。
さういふのが、楽しいよね。

とりあへず、時間ができたら宗十郎の残した紀伊国屋型の六段目の録画を見に行きたいと思つてゐる。

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