Try to Remember
記憶と愛情とは比例しない。
台形の面積の求め方を覚えてゐるからといつて、台形に愛情があると云へるだらうか。
あるいは算数に。
云へないだらう。
もしかしたら、台形のことが好きでたまらなくて、それで(上辺+下辺)×高さ÷2といふ公式を覚えてゐる人もゐるかもしれない。
でもやつがれはちがふ。
以前はそれでも、「好きだから覚えるんだ」と思つてゐた時期がある。
何曜日の何時からはどのチャンネルを見る、とかね。
好きな番組だから覚える。
同じ本屋のカバーがかかつてゐても、どれがどの本かわかる、とか。
これは記憶とはちよつとちがふか。
でも以前はさうだつた。
好きでも覚えられない。
さういふものもある。
たとへば、「菅原伝授手習鑑」の「寺子屋」が、もうせん好きで、好き過ぎるくらゐ好きだ。
文楽で見る前、学校に通つてゐる時分からさんざんくりかへし聞いてゐる。
かたり出しから終はりまで、一言一句、どこをとつても最高だと思つてゐる。
だが、覚えてゐるかといふと、さうでもない。
もちろん、部分部分は覚えてゐるし、聞いてゐると一緒にことばを口にできたりもする。
でも、なにもない状態ではムリだ。
好きでなくても覚える。
好きなのに覚えられない。
なんだか世の中、うまくいかない。
これからますます覚えられなくなるだらう。
覚えてゐたはずのことも忘れていくだらう。
「愛情がなくなつたからだらうか」とか「好きなのになんで覚えられないんだらう」とか思はないやうにしなければ。
さみしいけれど、この世はさうしたものらしいから。
« ジャムではなくママレードでもなくブランデーで | Main | 自分で編んでもステキぢやない »
Comments