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Thursday, 08 November 2012

行間を埋めたい症候群

先日、角川ソフィア文庫の「ビギナーズ・クラシックス 中国の古典」から「史記」を読んだ。
その前に「漢文法基礎」を読んでゐて、なにか実践になるやうなものを読みたいと思つた。
なるべく白文に近い文章が掲載されてゐる本、といふことで、選んだのが「ビギナーズ・クラシックス 中国の古典」だつた。返り点とか一二点とかだけの、カナはふられてゐない文章が書き下し文の次に掲載されてゐる。

ちよつと話はそれるかもしれないが、白文に近い文章を掲載してゐる漢文の本がほしかつたら、学習参考書が一番確実でお手頃だ。
実際、以前はそれでなんとかなつた。
学習参考書なら地元の小さい本屋でも扱つてゐる。
しかし、「漢文法基礎」にも書かれてゐるが、大学入試に漢文を出題する大学が減り、センター入試くらゐでしかお目にかかれないやうな状況では、選択肢もまた大変に少ないのであつた。
とにかく構文を覚えさせる参考書ばかりが目につく。長文を読ませるやうなものは以前に比べて減つてゐるやうに思ふ。
まあでも、「三国志で攻略!センター漢文12」なんてな本もあつたりするので、あなどれない。この本についてはまた機会をまうけて書きたいと思ふ。

「ビギナーズ・クラシックス 中国の古典」では紙幅が限られてゐるので、「史記」からは伍子胥のくだり、戦国四君のうち魏公子のくだり、そして項羽と劉邦のくだりが抜粋で掲載されてゐる。

これがねえ、読んでて、出てくる人出てくる人、他人のやうに思へないんだねえ。

他人のやうに思へない、といふのはチト違ふかな。
昔の人のやうには思へない。
紀元前とか、「いつの話だよ!」といふくらゐ昔の話なのに、なんといふか、TVでドキュメンタリを見てゐるかのやうな感じがしてくる。
所々にはさまれてゐるコラムもいいのかもしれない。

特に項羽と劉邦のくだりのおもしろさといつたら、ねえ。
なんでこのくだりがもつと物語とか映画とかに展開していかないのかと不思議に思はれるほどだ。

でもそれつて、「史記」で十分おもしろいからなんだらうなあ、きつと。

三国志演義」がああなつたのは、やはり正史の「三国志」がスカスカだからなんぢやないかな。
陳寿が、おそらくはいろいろ政治的な背景があつたりして、禁欲的(とはチトちがふか)に書いたせゐで、裴松之が「きぃ!」とばかりに補注をし(「きぃ!」は無論やつがれの偏見である)、それでも足りなくて、市井の人々が尾ひれをつけまくつた結果が「三国志演義」なんぢやないかな、といふのは、大勢の認めるところだと思ふ。

その昔野田昌宏は「スペースオペラの書き方」で、高千穂遙が「今は少し設定をゆるくして、読者の想像にまかせる部分を作つたはうが人気が出る」といふうなことを云つてゐた、と書いてゐる。
野田昌宏はそれとは意を異にしてゐて、「自分はやはり設定はかつちりさせてそれから書きたい」といふやうなことを云つてゐる。

多分、高千穂遙のことばから「今は」を抜いても成り立つんぢやないかと思ふ。
人には、スカスカな行間を埋めたいといふ欲求があるんぢやあるまいか。

そんなことを考へつつ、次は同じビギナーズ・クラシックスシリーズから「春秋左氏伝」に挑戦してみるつもりである。

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