パイロットの石目を買ふ
たうとうやつてしまつた。
パイロットの蒔絵万年筆 変わり塗り 石目を買つてしまつた。
こちらで見て、ずつと気にはなつてゐた。
なにしろ十万円を超えるやうな萬年筆の書き味が、半分以下の価格で楽しめるといふのである。
去年の暮れには買はうと思つてゐた。
しかし、縁がなかつたのか、店頭に並んでゐるのは見るものの、なかなか踏み切れずにゐた。
それが、土曜日、行くつもりもなかつたがなんとなくぶらついてゐた横浜で、出会つてしまつた。
その日、横浜高島屋の伊東屋ではパイロットの筆圧鑑定が行はれてゐた。
この顛末についてはまた別に書くとして、そこで話すうちに、つい、「石目に興味があるんですよね」と云つてしまつた。
すると、売り場の方に誘はれて、そこで試し書きして、決まつてしまつた。
なんだらうね、この、書き心地。
細字と中字とあつて、まづ細字を試した。
月並みだが、電流が走るとはこのことだらうか。
書いた瞬間、びびびつときた。
筆圧鑑定では、細軟とか中字軟とか、やはらかいペン先がいいと云はれた。
石目には「軟」のつくペン先はない。
ないけど、このやはらかな感触はなんだらう。
まるで、書いてないみたやう? あつらへたやうな書き味だ。
中字も試してみた。
中字とはいふものの、細字好みの自分でも十分な細さがある。
こちらもすばらしかつた。
「中字もいいなあ」と思ひつつ、もう一度細字を試してみた。
これだ。
これしかない。
中字の書き味を考へると、細字でも多分今ここにあるこれが、まさに自分のためのペンだ。
ほかのペンはまた書き味も違ふだらう。
さう思つて、購入した。
最初は黒いインキを入れやうかと思つてゐた。
しかし、それには漆黒のやうな、まさに黒、といふ黒が必要な気がした。
残念ながら手持ちにはそんな黒インキはない。
いろいろ考へて、色彩雫の月夜を入れてみた。
いい感じぢやあなからうか。
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