今月見に行く予定の芝居
新橋演舞場に「東海道四谷怪談」を見に行く予定である。
「東海道四谷怪談」といへば、怖いもの、と、相場は決まつてゐる。
ホラーとか怪談とか大の苦手のやつがれには、本来縁のない演目のはずである。
きつかけは、山田風太郎の「八犬伝」だつたと思ふ。
朝日新聞に連載されたこの小説は、「南総里見八犬伝」を描きつつ、物語を書く曲亭馬琴のことも描いてゐた。
中に、馬琴と同時代人である四世鶴屋南北も登場する。
「東海道四谷怪談」を上演する話も出てくる。
ここで、「東海道四谷怪談」は忠臣蔵の世界の話であるといふことをはじめて知つた。
まだ歌舞伎を見たこともないころのことだ。
その後も歌舞伎を見ることなく過ごすうち、岩波文庫に「東海道四谷怪談」があることを知つた。
悩んだ。
怖かつたらどうしやう。
それでなかなか手が出ない。
あるとき遠出をすることがあつて、車中暇だらうといふので、「東海道四谷怪談」を旅の友にすることにした。
怖くなりさうだつたらそこでやめればいい。
さう思つた。
電車に乗つて座席につくなり読みはじめてみたらばこはいかに。
おもしろい。
巻置く能わず、と、よく云ふが、戯曲(……つて云つていいのかなあ)とは思へないほど話の流れがつかみやすいし、おもしろい。
特に、序盤。伊右衛門と直助が四谷左門を殺してお岩・お袖姉妹に取り入るくだりが実によくできてゐる。
「東海道四谷怪談」以外の芝居もまだ見たことのないその状況で、「これは、多少まづい役者がやつても十分おもしろい話なのではないか」と、さう思つた。
その後しばらくして、歌舞伎座などに足を運ぶやうになつて、さて「東海道四谷怪談」がかかるといふことになつた時、「怖いから、遠くから見やう」といふので、三階席のそれも奥深いところから見ることにした。
話のおもしろさはそのままに、まつたく怖くなかつた。
なんだといふので、次に見るときは思ひ切つて一階席を取つてみた。
その時の役者の調子といふのもあるのかもしれないが。
この時は実に怖かつた。
なにが怖いつて……
うーん、別に幽霊とかが怖かつたわけぢやあない。特殊な化粧が怖かつたわけでもない。
ただわけもなく、背筋のぞつとする感覚があつた。
今回はどうかなあ。
やはり怖いだらうか。
あるいは哀れに思ふか。
それとも……もしかしたら退屈するかも?
といふわけで、見に行くのを楽しみにしてゐる。
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