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といふわけで、ペンクリニック初体験、である。
見てくださるのは長原幸夫先生だ。
さんざん悩んでモンブランのマイスターシュテック オマージュ・ア・フレデリック・ショパンを持つていつた。
まづモンブランの保証がなくなることを確認された後、ちよつとペン先を見るなり「カリカリカリカリするでせう」と云はれた。「でもよく使へとるよ」といふのはこれは話半分くらゐに聞いておいた方がいいのかな。
ペンの太さは、力を入れずに握れるくらゐがよい。丁度卵を握るやうな力の入れ具合で、と続く。なるほど、この萬年筆は細すぎる。ふーむ、さうするとスーベレーン400も細いよな。オプティマとかドルチェヴィータならいい感じだらうか。レアロもいけるな。と、頭の中で考へる。
また、ペン軸を抜き出して、「インクのかすと紙のゴミ」と教へられる。インキのかすはともかく、紙ゴミがあんなにつまつてゐるとはっっ。さうなのかー、紙ゴミかあ。水道水を流しておいて掃除をするとよいと教はる。
幾度かペン先を研ぎスリットにディスクをはさんだりして、戻つてきたペンはまあ信じられないやうな書き味のよさ。
「一年に一度車検のつもりできんさい」と云はれて、無事終了。
ほんたうはその後も脇でそれとなく見学してゐればよかつたのだらうが、緊張がピークに達してゐたのでそそくさとその場を去る。
周囲はどうも常連さんばかりだつたやうだ。やつがれの前の人はLAMMYかなあ、鉄ペンの調整をしてもらつてゐて、やつがれの後は御夫婦だつたらしい。その他にも次から次へとお知り合ひがあらはれる。
実は以前も別の場所でペンクリニックを傍観したことがあつたのだが、なんだかみんな「マニヤ」な方ばかりのやうで仲間に入れてもらひづらかつたんだなあ。やつがれは、萬年筆は好きで使ふけれども、それ以上の知識はないからなあ。
なんか、「ぼーつとした話のわからん奴」と思はれたらうなあ。
ま、いつか。
以上、東京大丸の文房具売り場で、セーラー万年筆のペンクリニックが開催された、その時のことを書いてみた。
午後一時から二時まで昼休みだといふので、二時ちよいまへに着くやうに行つたら、ペンクリニックの方は休みに入つたばかりのやうだつた。
今回はインク工房も同時開催で、こちらも体験してみたかつたのだが、今回は断念。
目の前でくりひろげられる職人技つて圧巻。これはペンクリニックもさうだし、インク工房もさう。思はず見入つてしまふ。
それにしても緊張するつてどーよ。それつて自分を自分以上に見せたいつてことぢやないのか、と、あとで反省。
まあ仕方ないね。
それにしても、蘇つたかのやうなこの書き心地を如何せん、だよ。
いや、どうしやうもないのだが。
たとへやうもなく、うれしい。
一度は行つてみたいペンクリニック。
だが、ちかごろますます盛況とのことである。
といふわけで、とりあへず「自重で書けるかチェック」をしてみたところ。
むー、書けるなあ。
いづれをとつても自重で書ける。
親指と人差し指のあひだに萬年筆をたてかけて動かすだけなのだが、ちやんと線が書けるものばかりである。一瞬書けないものもあつたりするが、角度を調整するとちやんと頭からかすれずに書ける。
一番古いモンブランから最近購入した「ラテンの國の萬年筆」ドルチェヴィータまで、ひとまづ問題なささうだ。
といふことは、あとは角度とかの調整、といふことにならうか。
つてーか、かういふ場合は行つてはいけないのだらうか。そもそも混んでゐるわけだし。
でも、一度行つてみたいんだよなあ。
と、葛藤はつきないのである。
ちなみに、やはり見てもらうペンのインキは抜いていくべきなんだらうか。
むむ。悩む。
いつかこの日が来るとは思つてゐたが。
案外はやかつたな。
フェリーニの映画かディオールの香水か。
はたまたデルタの萬年筆か。
といふわけで、本日書斎館でドルチェ・ヴィータを買つてきた。
実は最終的にはヴィスコンティのヴァン・ゴッホとどちらにするか迷つたのだけれども。
その旨、店員の方に伝へたら、「伊太利の萬年筆は癖が強い」といふやうな話をいきなりしてきた。
どうも、デルタにしてもヴィスコンティにしても、伊太利製の萬年筆は個体差が非常に大きく、調整に出したりすると「三ヶ月」といつてゐたのが半年にもそれ以上にもなることがある、といふのである。
どうやら「ラテンの國だから」と云ひたいらしい。
伊太利製の萬年筆を使つたことがありますか、と訊かれたので、「アウロラを使つてゐます」と答へる。
すると、アウロラはましな方なのである、といふやうな話をされる。
ふむん。
伊太利製の萬年筆は、本邦のものや独逸製に比べたら確かにさういふ特徴があるのかもしれないが。
でもストラディヴァリウスだつてグァルネリだつて伊太利製だぜ。
伊太利製の革のかばんは他国製のものに比べて壊れやすいといふ話も寡聞にして聞かない。
萬年筆は個体差が激しいのかなあ。
試し書きさせてもらつた萬年筆はどちらもそれなりに書きやすかつた。インクをペン先につけて書いてゐるので半分くらゐに考へるとしても、悪くない。
さんざん迷つて、結局ドルチェ・ヴィータのミディアムに。バーメイルにすればよかつたかなあとも思つたが、普通の銀色のにした。
帰宅して、早速デルタの青インキを入れてみた。
書き味は悪くない。
アウロラのオプティマを買つた時はわざとちよいとかたい感じのペンを選んだ。相当苦労したけれど、今でもまだちよつと苦労してゐるけれど、でも最初のころに比べたら格段に書きやすくなつてゐる。
どちらも純正の青インキを入れてゐるのだが、色のちがひを見るのも楽しい。
ああ、これがもしかして、甘い生活?
たまにはかういふエントリもいいだらう。
ここのところ昔読んだ本ばかり読んでゐる。
「仕掛人・藤枝梅安(一)殺しの四人」
「仕掛人・藤枝梅安(二)梅安蟻地獄」
「仕掛人・藤枝梅安(三)梅安最合傘」
先月新橋演舞場で「鬼平犯科帳」から「大川の隠居」を見、翌日たまたまTVドラマ「鬼平犯科帳」の同エピソードを見た関係で、突然「鬼平犯科帳(六)」に手を出したところからはじまつた今回の梅安シリーズ、である。
はじめて池波正太郎を読んだ頃といふのは高校生だつたので、すべてを購ふわけにはいかなかつた。どちらかといふと、ほとんどは学校や公共の図書館から借りてすごしてゐた。「剣客商売」だけはのちに文庫でそろへたものの、梅安と鬼平はほぼ持つてゐない。
今回読んだのも新装版だ。
鬼平もいいけれど、自分には小兵衛や梅安の方があつてゐる気がする。
組織ではないからだ。
特に梅安。
小兵衛は時に田沼意次の力を借りたりするが(それがまたいい、といふのが我ながら矛盾してゐるが)、梅安はさういふことがない。力を借りるといつて同じ仕掛人仲間の彦次郎かせいぜい小杉十五郎とともに動くくらゐだ。
もちろん、仕掛人には仕掛人の世界の「組織」といふのがある。あるけれども、仕掛人自体は「フリーランス」な感じだからな。職業柄さうなるのだらうが、そこがいい。
演舞場で「大川の隠居」を見た後は無性にうまい酒を飲みたくなつた。今回は無性にうまいものが食べたくなつた。うまいものといつて別に高級なものでなくてもよくて、それこそ浅蜊にねぎと少々出汁になるやうなものがあればいいといつたところ。豆腐もいいね。それでちよちよつとなにか作つてうまい酒の肴にする。
いいなあ。
池波正太郎作品の楽しみはかういふところにもある。
ちなみに今読んでゐるのは「眠狂四郎無情控」。これも中学生くらゐのころあらかた読んだが、どうやらこれは読んでゐないらしい。上下二巻。楽しく読んでゐる。「無頼控」のころの鋭さはなくなつたものの、狂四郎は得難いキャラクタだ。
「ビールがおいしく感じる季節」といつて恬として恥ぢるところがない。
6/1朝のニュースで、栃木県小山市上空からの実況であつた。
ここで、なにも揚げ足を取らうといふのぢやない。
NHKのアナウンサでさへも普通に使ふ表現なのだ。
「ビールが」おいしく「感じ」たり「新刊が」「売つてゐ」たりしても、まつたくをかしくないのである。この文法はもう正しいのだ。
めうだと感じるやつがれの方がどうかしてゐるのである。
言語は、特に口語は、時々刻々かはつてゆくものなのだと思ふ。以前はよく「ら抜きことば」なんて云つたけれど、最近はとんと耳にしなくなつた。もうあたりまへのことになつてしまつたのだらう。
「ビールがおいしく感じる季節」のなにがをかしいのか。
ビールが感じるか? さう考へればすぐわかるだらう。
正しくは「ビールがおいしく感じられる季節」なんぢやなからうか。
あ、「正しくは」とか書いちやつた。どちらかといへば、かな。
ビールは感じない。新刊は売つたりしない。どちらも感じられ売られるものだ。
しかし、この表現にはひとつの法則がある。
状態をあらはす時に使はれるといふことだ。
すなはち「ビールがおいしく感じる」といふのは、「ビールがおいしい」といふ状態を感じ取ることである。「新刊が売つてゐる」とは云つても「新刊が売る」とは云はない。すなはち売られてゐるといふ新刊の状態をあらはす時に「新刊が」といふのだ。
さうわかつても、また既に正しいものになつてゐるとしても、おそらくみづから進んで使ふことはないけどな。
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