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Monday, 30 April 2007

浄瑠璃脳

再来年の大河ドラマの主役は直江山城守ださうな。
さう聞いた途端、やつがれの頭の中に浮かんだのは、「なーんだ、今年の主役の弟ぢやん」であつた。

…………なんだかあちらこちらから非難・間違ひの指摘が飛んできさうだが。
それは「本朝廿四孝」を知らない向きのことであらう。
「本朝廿四孝」では、確かに山本勘助の弟は直江山城である。
そして、勘助は上杉景勝と瓜二つであるといふ理由で、みづからの片目を潰すのである。
♯実は勘助は父の方であり、浄瑠璃の時点ではその妻・つまり二人の母親が
♯勘助を名乗つてゐるが。

…………それでもまだ非難囂々の気配がするなあ。

お浄瑠璃はさういふでたらめを書くからダメなのだ、とか云はれさうだがさにあらず。
お浄瑠璃の作者は、浄瑠璃を見に来るやうな客はたいていそれなりの教養をそなへてゐたと見て取れる部分がある。
客もわかつてゐてかうした「でたらめ」を楽しんでゐたのにちがひない。「をを、今回の浄瑠璃は、山本勘助と直江兼続を兄弟にしたか。すごいな」「ふーん、将軍殺害の犯人(さう、「本朝廿四孝」の発端は足利将軍暗殺なのである。その犯人を殺害現場に居合はせた武田信玄と上杉謙信が探すことになり、日限までに探し出せなければそれぞれの嫡子を殺す、と、かういふ話なのだ)はこいつかあ」とおもしろく見たのに相違ない。

虚構と史実とを楽しめる、それが真の教養ではあるまいか。

まあ、教養談義はさておいて、やつがれの頭の大半はお浄瑠璃でできてゐる。
鏡花も三島も谷崎も、芝居ものしか読んでゐない(「戯曲しか読んでゐない」と読みかへてたべ)し、初対面の人に挨拶する時は「よろしくお願ひします」と云ひつつも、頭の中では「よろしく頼み上げます、と、手をつかへ」と云つてゐる。泣きたくなれば「終には泣かぬ弁慶も」だし、決意を問はれれば、「ただ初一念でございます」だ。独楽が上の方にある紡ぎ独楽(スピンドル)を手にすれば気分はもうお三輪ちやんだし、帰宅時間が遅くなれば「羽根が欲しい 翼がほしい 飛んでいきたい」帰りたい、とこれまた気分は八重垣姫か八百屋お七だ。

それでいいぢやあないか。
英国では数学の教授でさへ沙翁の科白を口にすると云ふぜ。
せめて冬の宵には「この世のなごり夜もなごり」くらゐ唇の端にのせてみたいものである。
♯あ、縁起が悪過ぎる? すまん。

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