怒りのビジネス文書
以前から書いてゐるが、ビジネス文書に関しては、相当の怒りを抱いてゐる。
とはいへ、「ビジネス文書」そのものに対して怒つてゐるわけではない。
「ビジネス文書は口語で書くこと」といふ決まりに怒つてゐるのである。
「ビジネス文書は口語で書くこと」はあまねく知られた原則なのに、社内社外のビジネス文書からは以下のやうな表記がなくならない。
「13:30より小会議室Cにてミーティングを行ひます」
これを見てビジネス文書としてをかしいと思はない人はきつと新人の時にきちんと教育を受けなかつたか、やつがれのやうに「ビジネス文書は口語で書くこと」といふ決まりに怒りを覚えないまでも違和感を抱く人に教育を受けたかのどちらかであらう。
この例文には三つの誤りがある。
「にて」「より」「行ひます」だ。
正しくは以下のやうになる。
「13:30から小会議室Cでミーティングを行います」
「行ひます」はともかく、「小会議室Cにて」「13:30より」は一般的に見るではないか、といふ意見もあらう。
それは一般的にまちがはれてゐるからだ。
くどいやうだが、ビジネス文書は「口語で書く」ことになつてゐる。
すこし考へてみてほしい。口に出して云ふ時、「小会議室Cにてミーティングします」とか「13:30よりはじめます」と云ふだらうか。
云ふ、と答へた人は、それは予め読み上げる文書がある時に限るといふことはないかどうか考へてみてほしい。
口に出したときの違和感は、疑問文にするとさらに顕著になる。
「どこにてミーティングをしますか」
「何時よりはじめますか」
そんな喋り方をする人はまづゐない。まあ広い世の中ひよつとしたら何人かあるいは何十人かゐるかもしれないが、極々少数派のはずである。
すなはち、「小会議室Cにて」「13:30より」はビジネス文書としては誤りである。なぜつてこの用法の「にて」「より」は書き言葉だからだ。
かんたんなことなのに、理解してゐない人が多いのは嘆くべきことである。
だからいつそ、「ビジネス文書は文語で書くこと」にきまりをあらためてはどうだらうか。この場合、「候文」はわかりづらくなりがちだから避けてほしいとは思ふが、しかし「ビジネス文書は文語で書くこと」。もちろん学校でもきちんと文語の書き方を教へる。
いいと思ふがなあ。
山本夏彦は「人はかざつてものを云ふ」と書いた。
昔はこれを「話す内容をかざるのだ」と思つてゐた。
だが、それだけではなかつた。
人は、美文を書きたがる。美文と云ふと大袈裟かもしれないが、気取つた文章を書きたがる。
だから「小会議室Cで」でいいところをわざわざ「小会議室Cにて」と書き、「13:30から」で済むところをなにを思つてか「13:30より」と書いてしまふのである。
人は気取つた文を書かうとすると、文語にかへつてしまふのだ。
いいぢやあないか、ビジネス文書は文語で。文語はわかりづらいと云はれるかもしれないが、なに、世の中の大半の人の書くものは口語であつてもわかりづらいことにかはりはない。
と、ここまで書いてきて自分はなにに対して怒りを覚えてゐるのかあやふやになつてきた。
最初は「ビジネス文書は口語で書くこと」と決めたどこかのたれかに対して怒つてゐると思つてゐたのだが、実は「ビジネス文書は口語で書くこと」に対して疑問も反感も抱かずにゐながら平気で「小会議室Cにて」とか「13:30より」と書く輩への怒りなやうな気もする。
あるいは「文語」を禁じられた怒りかもしれない。
まあいいけどね、「ビジネス文書は口語で書くこと」でも。
だけどたのむから「この「にて」と「より」はまちがつてるよ」と云つたら「なんでですか」とか訊かないでほしい。「みんな書いてるぢやないですか」とか。
書きたいんだつたら「ビジネス文書は口語で書くこと」といふきまりに反対しろ。
ちなみにやつがれは反対してゐないので「小会議室Cで」「13:30から」と書く。
その他、「なんだかこれ文語つぽい」と思つたらできるだけ辞書を引く。
ああ、なんて面倒くさい!
なるほど、この「面倒くささ」に対して怒つてゐるのかもしれんな。
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