泣きのツボ
「全米が泣い」ても泣かないやつがれだが。
やはり涙のツボといふのはある。
ひとつは「自分を理解してくれてゐる人のためにみづから(あるいはみづからの大切なもの)を犠牲にする」話。
たとへば「菅原伝授手習鑑」は「寺子屋」とか、あるいは海音寺潮五郎のオムニバス小説に出てくる不破数右衛門の話。
「寺子屋」にはいろいろな見方があると思ふ。橋本治は、松王丸とか政岡とかあるいは九代目以前の「熊谷陣屋」の熊谷(衣装に関しては今後も「芝翫型」とか云ふて成駒屋がやると思ふ)といつたお主のために我が子を犠牲にするやうな役は概してみな衣装が派手で、以てみな阿呆といふことだと云つてゐたと思ふ。
なるほど、政岡はともかく松王丸なんて舎人のくせにあんな派手派手な格好で出てくるのはおかしいし(鬘については病み上がりといふことでああなつてしまふのはまあ仕方ないにしても)、芝翫型の熊谷の衣装は敵役の中でもチト劣る役の着るものにさも似たりである。
けれども、松王丸はただ一人自分のことを理解してくれてゐる菅丞相のためその家族のためにみづからの一子を犠牲にする。
……ってーのはまあまた別の話で。
今回、たまたまamazonの特売洋書を見てゐて、思はず「ぽちつとな」してしまつた本がある。
_To Kill A MockingBird_、邦題は「アラバマ物語」である。
これ、ねえ……弱いんだねぇ。これとか、あと映画だけど_Mr. Smith Goes to Washington (邦題は「スミス氏都に行く」)_。心の一番弱い部分をぐさりとさされた気持ちになる。
ま、「スミス氏都に行く」はともかく(だつてこの話、いくらなんだつてできすぎでせう)、_だ。
映画といへば「アラバマ物語」も映画になつてゐて、グレゴリー・ペックは弁護士アティカス・フィンチ役でアカデミー主演男優賞をとつてゐる(原作と比べるとちよつと立派過ぎる感じがするがね)。また、謎の男として登場するロバート・デュバルはこれが初出演作ださう。主人公でアティカスの娘・スカウト役も達者で、ほかにどこかに出て来ないかと思つてゐたら、ある日たまたま見てゐた「トワイライト・ゾーン」に出てゐた。もうだいぶ成長して女の子らしくなつてゐた。
つて書くまでもなかつたか。
映画ではまあやつぱり泣かないけど(でも最後のあたりとかいいよね)、原作にはぐつとくる。
はじめて読んだときは「みんな正義がなにかわかつてゐるのにそれがなされない」ことに泣けるのだと思つてゐたが。
最近どうもちがふやうな気がしてゐる。
今回、特売といふ好機を得てペーパーバックを入手したので、あらためて確かめてみるつもり。
しかしなー、電車の中で読んでて、泣いちやつたりしたらどうしたもんだらうね。
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