流行とは
だいぶ前のことだが、久しぶりに上京したをり、品川駅から渋谷方面行きの山手線に乗つた。乗つた位置がよかつたのかあるいはさういふ時間帯だつたのか、車内はかなりすいてゐた。
座席に落ちついてふと前を見ると、なんだか妙な感じの若い女性が座つてゐる。
「妙」といつて、別段ふつうの女性とかはつたやうすはない。着てゐる服のセンスも悪くないし、まあきつと渋谷あたりの若人が集まるあたりにはかういふ格好の女性がたくさんゐるんだらうなあといつた感じだつた。
ではなにが妙なのだらうとよくよく考へて、あ、と思つた。
眉毛の形が妙なのである。
東京に出てきて、気合ひを入れて姿形を整へた女性である。眉毛だつて当然抜いたり剃つたりしてゐるのだらう。おそらくその眉は家でひいてきたものにちがひない。
だが……失礼乍ら似合つてないのである。ごめん。でもほんたうのこと。
「まだお若いごやうすだし、きつとお化粧ははじめたばかりなんだらう」
と思つてまたはつとする。
同じ車両には目の前の女性とほぼ同年代と思はれる女性が三人ほど乗り合はせてゐた。
そして、みな一様に同じやうな形の眉をしてゐるのだつた。
顔立ちはひとりひとりみんなちがふのに。
流行とは罪なことをするものである。
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