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Saturday, 18 March 2006

省いちやいけない名せりふ

甲府宰相綱豊卿もずいぶん見た。
今だと松嶋屋かもしれないが、大和屋の綱豊卿も実によかつた。大和屋は大河ドラマで武智^H^H明智光秀をやつてゐるが、これがまたいい。はつきり云つてひとりだけ全然空気がちがふ気がする。特に芝居をしてゐるやうにも見えないのに微妙な表情の動きなんぞが実にすばらしい。三谷幸喜は大和屋でひとつ芝居を作らぬものかと思ふが、大和屋があまりによいので作りたいと思はないのかも知れない。いつたい三谷幸喜は少しダメな役者か役者とも呼べぬやうな「タレント」が好きなやうに見える。

もとい。

綱豊卿といへばもちろん眞山青果で、「元禄忠臣蔵」は御浜御殿である。やつがれはどうも一条大蔵卿とか綱豊卿みたやうな「つくりあほう」が好きで人生の師とあふいでしまつたりしてゐた時期もあつた。

「元禄忠臣蔵」といへば「大石最後の一日」もいい。大石はやはり播磨屋だらう。「ただ初一念」といふせりふが実にいい。

ちがふ芝居だが番町皿屋敷の青山播磨も大和屋はずいぶんよかつた。紀伊国屋がまだ元気だつたころお菊で出てゐて、また橘屋がお女中で出てゐて着物の裾の動きのすばらしさにただただうつとりしたものだつた。

「荒川の佐吉」は松嶋屋・澤瀉屋・中村屋で見た。初めて見たのは松嶋屋で、まだ先代(先々代か?)が存命中で相政役で出てゐて、ひどく泣かされた。相政といへば中村屋の時は島田正吾がつきあつてゐたつけか。いまやどちらも故人である。故人といへば、成川郷右衛門をこれも今は亡き尾上松助が演じてゐたことがあつて、酷薄さうな感じが実によかつた。澤瀉屋の時はなんだか全然泣けなくて、同じ芝居を同じ人物が演出しても演じる役者でかうもちがふかと感慨深い。当時は「なんで泣かせてくれないんだよう」と澤瀉屋を恨んだものだつたが、まあそれも芝居。

斯様にあつといふまに記憶は蘇るのに、去つてしまつた人はかへつては来ない。
老衰といふことにわづかにほつとするばかりである。

今日、眞山美保の訃報を聞いた。

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