兼好法師も云ひました
「手のわろき人のはばからず文書きちらしたるはよし」
徒然草第三十五段。
今朝の読売新聞にたまたまこの一文が出てゐるのを見、「そりやまたよい辻占」と、いそいそと東京は大井町に出かけた。
さう。フルハルターに依頼してゐたペリカンのスーベレーン400を受け取りに行つたのである。ペン先は細字にしてもらつた。
スーベレーン400なんてめづらしくもなんともない、といふ向きもありませうが、うれしくて仕方のない人間にはなにを云つても無駄無駄。
といふわけで、まづは一枚。
ホワイトトートイズ(フルハルター風に云ふとアイボリートートイズ)である。
どうも移り気なせゐか、花なら紫陽花、宝石ならアレキサンドライト、そしてかういふ「見る角度によつて色がちがふ」「インキいれたらまたちがふ」みたやうな色が好きだ。
インキは普通にペリカンのロイヤルブルーを使ふことにした。ペリカンのブルーブラックは実はあまり好きではない。それにブルーブラックはもうモンブランとウォーターマンと使つてゐる。ミニ檸檬にもペリカンのカートリッジインキでロイヤルブルーを使つてゐて、結構気に入つてゐるからといふのもある。ちよつと紫がかつたゐるところがいい。
どこででも普通に使ひたいからあまり奇抜な色は避けたいしな。
実は最初試し書きをしたところ、少しひつかかるやうな感覚があつた。「をや?」と思ひながらあれこれ試してみると、ある角度で突然まつたくちがふペンで書いてゐるやうななめらかな書き味が出現して「ああっっ」とくらくらする感じがした。
先客が二名ゐらしたので早々に退散したが、ひとつだけ手入れについて聞いてみた。
すると、毎日どんどん使つてゐれば特別な手入れはいらない、との答へがかへつてきた。
使へば使ふほど機能するし、ペン本来の長所が引き出される、とのこと。
インキを入れて使はないのが一番いけないのださうだ。
今まで萬年筆を購入するたびに手入れについて訊いてきたが、この答へははじめてだつた。
といふわけで、使ふことを店主の方と自分の心に誓ひ、その場を後にした。
帰つて箱の中を見たら、ペリカンの保証書とは別にお店の保証書が入つてゐた。保証書といふよりは、「大事に使ふぞ」といふ気にさせる、ちよつとしたことばの書いてあるカードだ。
インキを入れるとまたペン軸の色が若干かはる。
まだ来年のほぼ日手帳は届かないので今年のに書き込んでみる。
んー、いい感じ。
ちなみにこんな字になる。手のわろき人がはばからず文字書きちらしてみた結果。
真ん中は最近お気に入りのカランダッシュのターコイズグリーン。ファーバーカステルのペルナンブコ・プラチナコーティングに入れて使つてゐる。
つい先日清水義範の「わが子に教える作文教室」を読んだ。中に、「作文は縦書きで書かせやう」といふ勧めがある。日本語は本来縦に書くやうに作られてゐるし、漢字だつてさうだらう。「あります」と毛筆で縦に書いてみると縦に書きやすいやうにできてゐることがよくわかる、とある。
ま、日本語は縦書きでも横書きでも自由自在なところがいい、と、やつがれなんぞは思ふのだが、確かにこれだけ横書きばかりの世の中だと「縦書きがいいよ」と云ひたくなつてくる。
うーん、「手のわろき人」としては、やはりなんとなくはばかつてしまふのだが。
でも来年の年賀状は全部文字にしてみやうかな。
そんな気のする秋のゆふぐれなのだつた。
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