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Saturday, 08 October 2005

萬年筆といふ道具

少し前のことになるが、九月最後の連休のあひだに大井町のフルハルターへ行つた。

おそらく「何をしに?」といふ野暮な質問はないことと思ふが、えうは萬年筆を注文しに行つたわけだ。

もちろん、注文した萬年筆ができあがるのはとても楽しみだ。
しかし、この日、店主の方が話してくだすつたことは、とても趣があり、大変おもしろかつた。

思ひ出すままに書いてみると、


「万年筆は道具である」
「萬年筆は最低三ヶ月は使つてみてほしい。道具はちよつと使つただけではわからないから」
「道具は料理みたやうなもので、万人にあふとは限らない。ある人はいいと思つてもまたある人はさほどでもないと思ふものだ」
「道具は使つてみないとわからない」
「だから萬年筆でもなんでも何本も持つてゐる人がある。知らぬ人は妙だと思ふかもしれないが、道具とはさうしたものなのである。蒐集目的で集める人もゐるが、いい道具を求めるならば数が集まつてくるのは自然なことだ」

中にはやつがれの勝手な解釈も混ぢつてゐるが、ほぼこんなやうなお話だつた。狭い店内で、外を眺めつつ、時折こちらを向きながら、店主の方は熱心に語つてくだすつた。

この話を聞いて、「なるほど、タティングレースのシャトルも同じだな」と思つた。
タティングレースではシャトルといふ道具を用ゐることが多い。本邦ではクロバーの販売してゐるものしか手に入らないといつても過言ではない。越前屋やドヰ手芸といつた老舗は舶来のシャトルをそろへてゐるし、個人輸入といふ手もあるが、まあタティングレースのシャトルに関する限りクロバーの独占といつていいだらう。

さう、海外に目を転じれば、実にさまざまなシャトルがある。
そして、大抵の場合、かなり高価である。
クロバーのシャトルであれば二つで六百円、五つで千二百円程度で購入できる。
それが、たとへばやつがれ愛用のシャトルになると、$40くらゐする。GR-8 Shuttle といふこのシャトルは、Gary と Randy の Houtz 兄弟が製造販売してゐるものである。やつがれが注文した時は Randy とメイルのやり取りをし、製造もRandyが担当したやうだ。
♯ちなみにこの兄弟、どちらもかなりの大男である。
♯兄Garyは高校のアメリカンフットボールのコーチをやつてゐたらしいからおよそ想像はつくと思ふ。

さういへばこの時もRandyからいいアドヴァイスを頂戴したのだが。
まあその話はさておき。

ところでこのGR-8 Shuttleは実に個性的なシャトルで、どうしても慣れることのできないといふ人もゐるし、やつがれのやうに「もうこれでないとダメ」といふ人間ももちろんゐる。

つまりシャトルは道具だからだ。

タティングレースをたしなむ人の中にはもう「そんなにたくさん所有してどーするの」といふくらゐシャトルをたくさん持つてゐる人がゐる。中には蒐集してゐる人もゐるが、多くはタティングレースをするのに必要だから入手してゐるのだと思ふ。

つまりシャトルは道具だからだ。

いい道具に出会はうとしたら、とにかくたくさんの道具に出会ひ実際に使つてみる必要がある。
なるほど、と、うなづくことしきりだつた。


……たれですか、これを理由に萬年筆を増やすつもりだらうなんて云ひがかりをつけるのは。

いや、まあさうならないとも限らないけど。
しかしそれには萬年筆は高価なのだつた。

♯といふわけで、云ひ訳は要らないんぢやないか、と。
♯道具ならどんどん試してみていいんぢやないか、と。
♯余計なお世話かと思ひつつも書ける。

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Comments

良いお話をありがとうございます
この話を自分とカミさんに使おうと思います
道具は集まる、んですね
これからは『来るもの拒まず』、でいこうっと

「良いお話」はフルハルターの店主さんからの受け売りですから。普段はできるだけ知らない人に会わないようにしているのですが、この時ばかりは「やっぱり実際に会って話すっていいなあ」と思いました。
「来るもの拒まず」の話は是非weblogで拝見したいものです。

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