くりかへしの魔力
休日の編物は危険である。
週末、起き上がるとまだ頭がぼーつとしてゐる。
この状態で編み針と糸を手にしたら終はりである。
「……おなか空いてるのにな」
などと思ひ乍ら延々編んでしまふからだ。
「あと一段、いや、あと一模様、うーん、とりあへずきりのいいところまで」
と自分に対して云ひ訳しつつも。
空腹なら、なにか食べればいい。
そのとほりなのだが。
まづ、起き抜けはあまり食事をするやうな気分でない。
ぼんやりしてゐるから指先でも動かして目を覚まさうとする。
丁度編みかけのものが手元にある。これにしやう。
結果、編み続けてしまふ。
気がつけば NHK杯は囲碁の対局にかはつてゐて、あつといふまにおやつの時間といふこともままある。
食事をすることで手ににほひがついてしまひ、それが糸にうつるのがイヤだといふ考へが無意識のうちに働いてしまふのかもしれない。
そんな風に結論づけたこともあつた。
さもありなんさもさうず。
実際、毛糸ににほひがついてしまふとなかなかとれないものである。
しかしほんたうの理由は「くりかへしの魔力」にあるのではないか。
最近そんな気がしてゐる。
くりかへすことによつて次第にものができあがり、時に模様が浮かび上がつてくる。
さうなるとますますやめられない。
おそらく、休みの日の朝一番に編み針を手にしてはいけない。
いい加減学ぶ時だ。
と、いつも自分に云ひ聞かせてゐる。
云ひ聞かせてはゐる。
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