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Sunday, 02 January 2005

初春芝居

開場後しばらくしてから歌舞伎座に着いた。
正月気分とでもいふのだらうか、客も松竹の従業員も役者の奥方たちも、なんとはなしにのんびりのほほんとした雰囲気を楽しんでゐる。
いつもなら開演まで気の急くことが多いのだが、今日ばかりは時間のたつのも忘れてぼんやりとロビーと客席を行き来した。

感想は例によつて sotto voce に速報で載せてゐるが……

ちよこつと書くと、今回座つた座席は一階席上手寄りの二等席で、通路際だつた。隣は六席ほどまるごとあいてゐた。
と、書くと、おわかりになる方にはすぐ合点が行くだらう。
さう、役者の奥方・御令息・御令嬢方が入れ替はり立ち代はりやつてくる席なのである。

初春興行ではしばしばかういふことがあつて、今までも中村鴈治郎夫人・扇千景が隣の隣、中村翫雀夫人が隣、中村扇雀夫人が隣の隣の隣、といふことや、中村時蔵夫人と御令息が隣に、といふこともあつた。目の前が波野久里子なんてなことも二度ほどあつた。

今日は、隣の隣に中村福助夫人、隣に同御令嬢で「石切梶原」を見た。
先月、松嶋屋で見た時はさはやかな青年・梶原平三だつたが、今日播磨屋で見た梶原平三は酸いも甘いも噛み分けた大人といつた趣で、「いやはや、おもしろいのう」といつたところ。いづれも甲乙つけ難い。
こんな風に楽しめるのが芝居のいいところぢやのう。まつこと、おもしろきことおもしろきこと。

さて。
そんな春風駘蕩とした気分で歌舞伎座を後にしてみたらこはいかに。
世の中には正月気分なんぞどこ吹く風、道行く人はみなせかせかがつがつしてゐる。福袋を求める人の姿が餓鬼のやうに見えるのだらうか。
一体どうしたことだらう。

もう「正月気分」なんぞといふものは、芝居小屋にしか存在しないのかもしれない。
そんな気のする年の初めであつた。

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