誰のためのデザイン?
職場でエレヴェータの話になつた。
彼方からエレヴェータを目指して駆けてくる人があつたので、開くボタンを押して待つてゐやうとしたらあはてて閉じるボタンを押してしまつた、といふ話である。
ありがちな光景だ。
なぜかエレヴェータの開くボタンと閉じるボタンは間違へやすい。
聞いた話ではエレヴェータの閉じるボタンを押すのは日本人くらゐだといふのだが……。
まあそれはさておき。
開くボタンと閉ぢるボタンは、最近は横向きの三角形二つで示されてゐることが多いやうに見受けられる。これが案外わかりづらい。
特に今の職場のエレヴェータはホテルのやうな気取つた感じで照明も暗いのであはてるとまづ間違へる。
これに「開」「閉」と字を刻印しても同じだらう。ぱつと見た時にちがひがわかりづらいことにかはりはない。
色を変へればわかりやすいかもしれないが慣れが必要だ。
ところでやつがれは長いこと団地住まひで、この団地、六階建て以上なのでエレヴェータがついてゐる。
一度エレヴェータを新しく入れ替へたことがあつてボタンなどもかはつてしまつたが、つひぞ開閉ボタンの押し間違へをしたことがない。
職場で上記のやうな話をして、ふしぎに思つて帰宅時、団地のエレヴェータに乗つてボタンを見た。
簡単なことだつた。
開閉ボタンはその他の階のボタンの三倍くらゐ大きくなつてゐて、しかもお定まりの三角形の表示の横に大きくひらがなで「ひ ら く」「と じ る」と書いてあるではないか。
あー、これぢやあ間違へないよなー。
合点がいつた。
こんな時思ひ出すのは「誰のためのデザイン?」である。著者はドナルド・ノーマン。
この本を読んで、「自分が悪いのではなかつたー」とつくづく思つたことが多い。
たとへば職場の照明のスイッチ。
どのスイッチを押したらどの電灯がつくのかさつぱりわからず、結局全部のスイッチを押してしまつた、といふ経験がある向きも多からう。
これはやつがれが悪いのではない。デザインが悪いのである。
あとこれは冨山学の本だが、エレヴェータの行き先階のボタンをトグルボタンにすればいいのに、といふのがある。
団地などではたまにあるのだが、幼い子供がいたづらにすべての行き先階(ただし自分が乗つた階以外)のボタンを押してしまふといふことがある。
また別にいたづらするつもりではなかつたのについボタンを押し間違へてしまふといふこともあらう。
かういふ時、もう一度押せば解除されるといふ仕組みになつてゐればいいのに、といふのである。
技術的にはそんなにむづかしいことはないやうだ、続く。
日ごろエレヴェータを利用してゐる身にとつては切実にほしい機能だ。
一見、開閉ボタンに「ひ ら く」「と じ る」と表記するなど無駄なことのやうに思はれるが、さにあらず、かやうに役に立つてゐる。
「使用する人のためのデザイン」といつたところか。
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