お浄瑠璃 龍珠乙
土曜の深夜にアニマックスで「ドラゴンボールZ」を見る。
芝居見物(夜の部、な)に行つたり仕事があつたりする時を除いて、ほぼ毎週見てゐるやうに思ふ。
平日も日によつて放映してゐるらしいのだが、我が家の場合ケーブルTVのチャンネルで放映されてゐる番組を録画するのがチト面倒なのであきらめてゐる。
一応フリーザ篇くらゐまでは以前見たことがある。
変体(?)するごとに声の調子が変はるポロリくん……ぢやなくてフリーザに震へた日々が、あこりや懐かしや。
といふわけで、かれこれ一年ほど、見つづけてゐる。
今は人造人間篇からセル篇……なのかのう。とりあへずセルの「畜生」様が出て、完全体になるところまで見た。
さうさう、セルといへば「畜生」である。これは見てなくてもなぜか知つてゐる。
たとへるなら「ベルサイユのばら」を読んだことがない人でもマリー・アントワネットがデュ・バリー夫人にかけた言葉を知つてゐるやうなものだ。
「ドラゴンボール」はそれくらゐのまんがである。
といふわけで、えー、今回脚光を浴びてゐたのはベジータ。さう、あの満都の乙女の心をわしづかみにした(?)ベジータ星の王子さまである。残念ながらやつがれは乙女ではないので王子様に興味はない。世の中、「王子」を僭称する輩が多いが(あ、ベジータはほんたうに王子様だからこれまた別)、やつがれにとつて王子様といへばそれはもう独逸の蛙の王子様(五人)しかゐないので……。
なんの話だ。
もとい。
あー、あとクリリンねえ。クリリンには泣かされるよねえ。
クリリンについてはずつと「ヤムチャや天津飯、ピッコロより扱ひいいだろ、クリリンは」と思つてゐたのだが……よくよく考へてみるとさうでもないのかも。
一緒に入門した同期の子とは最初から差がありすぎて、それだけならまだしも結婚や子供まで先を越されてしまつてなあ……
「ああ、友がみな我よりえらく見ゆる日よ」と嘆いても、親しむ妻もゐないクリリン。
あ、まーそれは別にヤムチャでも天津飯でもピッコロでも同じことですがぁ。
これで結婚願望がない、といふのならまだ救ひもあらうがなあ。
といふわけで、18号を破壊できないそのお気持ちはよくわかる。わかるがしかし、クリリンよ……。
ああ、あと孫父子の団欒、ねえ。いや、あれを「団欒」といつていいのなら。
見てゐて「菅原伝授手習鑑」は「寺子屋」の段」で「寺入り」を見てゐる時の気分になる。
「寺入り」はどういふ場面か、といふと……うーん、これだからエントリが長くなるんだよなあ。
もとい。
「寺子屋」といふのは菅丞相(菅原道真、な。ちなみに「カンショウジョウ」と発音する)の筆を継いだ武部源蔵・戸浪夫婦が営む寺子屋を舞台に展開する話なんぢやが。
源蔵・戸浪はそれぞれ菅丞相とその奥方に仕へてゐたんだけど今でいふところの「職場内恋愛」をしてしまふ。これつてご法度なんだよね。そんなわけで二人とも暇を出されてしまつた、と。解雇されてしまつたわけ。
一方、菅丞相は藤原時平の嫉妬をかつて大宰府に流される。しかも命まで狙はれてゐる。当然菅丞相の一子・菅秀才の命だつて。
といふわけで、源蔵と戸浪は幼い菅秀才をあづかり、自分たちの子として育ててゐるわけだ。
しかしそんなことはさうさう隠し遂せるはずもなく、時平(「シヘイ」と読んでたべ)の知るところとなる。
さあ困つたのは源蔵夫婦。寺子たちの中に身代はりになりさうな子を探すけれども、「いづれを見ても山家育ち」。たまだれのお育ちとこもだれの育ちぢやあ身代はりにしたつてごまかしきれねえや。
そこにあらはれる新入りの寺子・小太郎。小太郎はつい先ほど母親・千代に手を引かれて寺入りしたばかり。
さう、これが「寺入り」である。「寺子屋」自体は人気演目の一つだが、「寺入り」から上演するのはめづらしい。
千代は小太郎の寺入りを済ませると、チト用事があるによつて、と、小太郎を残して去つて行く。
ここで小太郎が母の背を追ふ。千代は甘えるんぢやないと小太郎をさとす。
これが後の千代のせりふ「いつにない後追ふたを叱つた時のあの」つらさ、とつながつてゆく。
実は小太郎は時平に仕へる松王丸の一子である。松王丸は今は時平に仕へてゐるけれども、心の底では名づけ親でもある菅丞相に恩義を感じてゐる。
今、菅秀才の一大事と、みづからの息子を身代はりにたてて(えうは息子に「菅秀才のかはりに死ね」と云つたわけだ)、その恩義にこたへやうといふのである。
松王は「菅原伝授手習鑑」を通してずつと悪役で、「寺子屋」の段でやつと本心を明かす。
これがなんとも切なくてねえ……。
小太郎を手にかけた源蔵に息子の最期はさぞかし見苦しかつたことだらうと訊ねると、源蔵はそんなことはない、立派だつた、菅秀才の身代はりに死んでくれろと云つたらば「につこり笑つて首さしのべ」なんてことを云ふわけだよ。
「寺入り」がなくても泣けるけど、「寺入り」を見てるともつと泣けること請け合ひだ。
てなわけで。
今後の展開を考へると孫父子の団欒つてこの「寺子屋」における「寺入り」と同じ効果を持つてるんではなからうか、と。
ま、死ぬのは悟飯ぢやなけねども。
などとひとりごちつつ、「さりげなくピッコロ大魔王カラー」のタティングレースのモチーフ2枚目をせつせと作つてゐたやつがれであつた。
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